研究概要 |
うつ病の薬物治療では、多くの患者で複数の抗うつ薬や抗不安薬、睡眠薬の併用がなされている。抗うつ薬は効果が得られる服用量(維持服用量)まで十分に増量し、再発を防ぐため6か月以上継続しなければならないが、維持服用量は個々によって異なる。これまで抗うつ薬の服用量と遺伝的因子との関連についての検討は、主に抗うつ薬単剤治療の患者を対象としており、複数の抗うつ薬や抗不安薬、睡眠薬の併用は考慮されていない。そこで本研究では抗うつ薬の応答性や維持量と遺伝的因子との関連について、抗不安薬や睡眠薬を含めて検討することとした。本年度は大うつ病性障害または気分障害と診断され、抗うつ薬(SSRI, SNRI, NaSSA)を服用していた患者71名を対象として、うつ病脆弱性や抗うつ薬応答性に関わるとされる遺伝子多型(セロトニントランスポーター, ノルアドレナリントランスポーター, 脳由来神経栄養因子, cAMP responsive element binding protein 1 (CREB1), CYP2C19, CYP2D6における遺伝子多型を解析した。抗うつ薬の応答性は効果不十分による薬剤の中止から判断した。抗うつ薬の維持量は、各抗うつ薬のイミプラミン(IM)換算量を算出し、併用の場合は合算した。また、抗不安薬や睡眠薬の影響を考慮するため、併用薬剤のジアゼパム(DZ)換算量を算出して併せて検討した。抗うつ薬応答性と遺伝子多型との関連は見られなかったが、維持量と遺伝子多型との関連についての検討では、CREB1 rs7569963においてGG型を持つ群がAG型を持つ群に比べて維持量 (IM換算量)が有意に高くなっていた。一方でCREB1 rs7569963とDZ換算量の間に有意な差は見られなかった。今回の結果より抗うつ薬の維持量においてCREB1遺伝子多型との関連が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は大うつ病性障害または気分障害と診断され、抗うつ薬(SSRI, SNRI, NaSSA)を服用していた患者71名について解析を行った。検体収集は、当初の予定通りに順調に進んでおり、収集した71名においては診療録等の調査も終了している。また、遺伝子多型解析においても、セロトニントランスポーター(5-HTT);LPR, rs25531, VNTR, ノルアドレナリントランスポーター(NAT);-182T>C (rs2242446), 脳由来神経栄養因子(BDNF);196G>A (rs6265), cAMP responsive element binding protein 1 (CREB1);rs4675690, rs2253206, rs7569963, rs7594560, Piccolo (PCLO);rs2522833, CYP2C19;*2, *3, CYP2D6;*5, *10と作用部位、シナプス可塑性、薬物代謝酵素などうつ病の脆弱性や抗うつ薬応答性に関連する7つのタンパクについて解析を終了している。
|