本研究は,アクアポリン10(AQP10)の小腸特異的な発現及び新たに見い出された核酸塩基輸送活性に着目し,未解明な部分の多い核酸塩基及び関連薬物の小腸吸収における役割を探るものである.前年度までの成果として,AQP10の5-fluorouracil(5-FU)及び6-mercaptopurine(6-MP)に対する輸送活性が見い出された.一方で,AQP10と同じくアクアグリセロポリン類に属するAQP7には同様の輸送活性はないことも明らかとなった.また,Caco-2細胞(小腸上皮細胞モデル)では,6-MPに対するENT(平衡型ヌクレオシドトランスポーター)様トランスポーターの関与が示唆された一方で,AQP10の関与による輸送の特徴は見られなかった.これらを受け,Caco-2細胞での5-FU輸送についての検討をまず行った.しかし,AQP10あるいは他のトランスポーター関与の特徴は見られなかった.続いて,6-MP輸送に関わるENT様トランスポーターの実体を探ったところ,ENT2が高い6-MP輸送活性を示し,その関与が示唆された.一方で,類縁体であるENT1には,6-MP輸送活性は見られなかった.また,5-FUに対しては,両ENT共に輸送活性を示さず,トランスポーター関与の特徴が見られないというCaco-2細胞での5-FUの輸送特性と矛盾しなかった.AQP10との比較の観点から,他のアクアグリセロポリン類(AQP3及びAQP9のクローン化体)の5-FU及び6-MPに対する輸送活性についても検討したところ(MDCKII細胞安定発現系を利用),AQP9にAQP10と同様の輸送活性が見られた.ただし,肝臓特異的なAQPとして知られるAQP9の腸管吸収への関与はほとんどないと考えられる.以上をまとめると,AQP10の5-FU及び6-MP輸送能を見い出すことができたが,Caco-2細胞モデルでのその関与を検証できるには至らなかった.今後,Caco-2細胞のモデルとしての妥当性を含めての研究の継続・展開を要すると考えられる.
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