研究課題/領域番号 |
25460209
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
角山 香織 京都大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (10571391)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 有害事象 / FAERS / シグナル検出 / 性別 / 年齢 |
研究実績の概要 |
米国食品医薬品局が運営する有害事象自発報告システム(FAERS)は、膨大なデータを保有する有用なデータベースである。しかしながら、有害事象自発報告システムには元来いくつかの弱点があることが指摘されている。一方、近年、このような膨大なデータに統計学的手法を適用し、医薬品との関連性が疑われる有害事象をシグナルとして検出できるようになったが、各種統計学的手法から得られる解析結果の特徴については、現在も議論が続いている。本研究では、①各種統計学的手法の解析結果の特徴、②患者背景や医薬品の販売経過年数、製薬企業等からの安全性情報発出が解析結果に与える影響、を明らかにし、有害事象自発報告データの弱点を理解し、医療現場で必要とされる有害事象に関する様々な情報を提供することを目指している。 ①に関して、平成26年度は、4種の統計学的手法の「シグナルとして検出される有害事象の数、また、4種のシグナルとして検出される有害事象の包含関係」の特徴について、解析対象期間を6年間(2004年から2009年)から14年間(1997年から2011年)に拡大し解析を開始した。 また、②に関して、患者背景のうち性別と年齢の影響について引き続き検討した。性別・年齢の影響は多発性骨髄腫治療薬、前立腺癌治療薬を新たに加え解析を実施した。その結果、解析対象薬剤に関わらず性別や年齢といった層別化により、注目した有害事象に関してシグナルの検出結果が変動することが明らかとなった。また、性別や年齢がリスクファクターとなりうる既知の有害事象については、解析結果が臨床上の知見と概ね一致したことから、これらの層別解析を行うことで新たに得られた知見に関しては、臨床現場に還元するに値する情報となることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、FAERSデータベースを利用し4種の統計学的手法を用いて医薬品の有害事象を解析している。患者背景や医薬品の販売経過年数、製薬企業等からの安全性情報発出が解析結果に与える影響に関して解析を実施する医薬品の選出は、医療現場のニーズを踏まえ、研究代表者が医療現場の最近のトピックス、緊急安全性情報(イエローレター)や安全性速報(ブルーレター)などを参考に行っている。しかしながら、これらの作業は、広範な論文検索、医師・薬剤師との意見交換等の活動が必要である。 平成26年度は、医療現場のニーズにあった情報提供を行うことを目指し、最新の医薬品とその有害事象に関するトピックスの収集、把握に努めたがその作業に予想以上に時間がかかった。しかしながら、この作業を通し、研究代表者も医療現場での実務に関わる道筋が整い、次年度からのより迅速な情報収集が可能となった。 一方、4種の統計学的手法によるデータの計算は、その分野に詳しい他研究室に依頼しているが、患者背景等の影響を検討するために、複雑な解析条件を設定すると条件によってはデータの計算にはある程度の時間を要する。 これらのことから、平成26年度の研究計画がやや遅れているのが現状である。 次年度も上記の点を踏まえ医薬品選出までの期間を出来るだけ短縮しながら解析を継続する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、基本的には研究計画調書の「平成27年度以降」の研究計画に従って遂行する。簡潔には、1.原疾患、併用薬についても解析を開始し、患者背景が解析結果に与える影響について調査する。また、2.医薬品の販売経過年数、製薬企業等の安全性情報発出が解析結果に与える影響を明確にする。 具体的には、1について、FAERSデータベースには、報告された医薬品の使用目的として適応症が登録されている。この適応症の情報に基づき、特定の原疾患を持つ症例と持たない症例に層別化し、特定の原疾患の治療薬として汎用される医薬品を解析対象として、スコアを比較する。スコアの変動の有無や変動幅の検討から、原疾患の症状のうちシグナルとして検出されやすい症状が明らかになると考えらえる。2については、発売年あるいは安全性情報発出年を起点とし、そこから1年ずつ期間を区切りスコアの変動の有無を確認する。スコアが変動する場合は、その変動と報告数の一時的増加との相関を調べる。また、1年ずつ期間を区切った場合と、販売後あるいは安全性情報発出から現在までの全期間を解析対象とした場合で、スコアを比較する。これにより、有害事象自発報告データの解析対象期間を適切に設定するための知見が得られると考える。また、1,2について日本の有害事象自発報告データベースであるJADERを用いて同様の検討を行い人種差の影響について考察を加える。 さらに、上記の解析結果を利用して、4種の統計学的手法によりシグナルとして検出された有害事象の数およびシグナルの包含関係を比較し、平成26年度までに明らかになった各種統計学的手法の解析結果の特徴の普遍性について検討する。 以上の研究結果を総合的に評価し、有害事象自発報告データの弱点を理解し、その対応策を確立することにつなげる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中に育児休業を取得したため、研究期間が短かった。
|
次年度使用額の使用計画 |
データ使用料、成果発表のための論文投稿料、学会参加費用等に使用する予定である。また必要に応じ、統計ソフト等の購入も検討する予定である。
|