研究実績の概要 |
トラマドール(TR)は,コデイン類似の合成化合物であり,弱オピオイドに分類される.TRは,消化管運動抑制作用が弱いため消化器癌の患者にも使用しやすい利点がある.一方,TRの鎮痛効果と副作用(悪心・嘔気や頭痛)発現頻度には大きな個人差があることが臨床上問題となっている.TRは不斉炭素原子を持つことから(+)TRと(-)TRのラセミ体を有し,(+)TRは選択的セロトニン再取り込み阻害作用,(-)TRはノルアドレナリン再取り込み阻害作用と異なった作用機序をあわせ持つことで発揮される.TRは,主に肝臓のCYP2D6によって代謝されるが、CYP2D6酵素活性には日本人における変異型は,酵素が完全欠損している*5や酵素活性を減弱させる *10の対立遺伝子が報告されている.本研究では,CYP2D6遺伝子多型別①EM (extensive metabolizer; *1*1)、②HM (heterozygous metabolizer; *1*5, *1*10)③IM ( intermediate metabolizer; *10*10) ④PM (poor metabolizer; *5*5, *5*10)の4グループに分類し、TR各光学異性体血中濃度を測定し,TR投与量,疼痛評価および有害事象発現状況を調査した。TR投与患者から,CYP2D6遺伝子多型群は、EM群4名、HM群3名、IM群5名、PM群0名であった。患者データからは、IM群者群では、EM群と比較して、(+)TR、(-)TR血中濃度が高く推移する可能性を見出したが、有意差は認めなかった。しかしながら、有害事象の項目として観察した頭痛および嘔気は、TR投与7日目までEM群において患者の自覚レベルがEM群より有意に高かった(2.6±1.3 vs 3.8±1.6, visual analog scale, mean±SD; * p<0.05(analyzed by repeated measures of ANOVA)。TR投与初期には、CYP2D6遺伝子多型によると考えられる有害事象(頭痛)について薬剤師は注意深く観察し、患者に説明する必要があると考えられた。
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