研究概要 |
うつ病の誘発が指摘されている薬物を実験動物に投与し、行動学的変化を観察した。抗うつ薬のスクリーニングに汎用される強制水泳試験を行ったところ、インターフェロン-αはマウスの無動時間を有意に増加させた一方、メフロキン(抗マラリア薬)およびトピラマート(抗てんかん薬)は無動時間を有意に短縮させた。今回使用した薬物は、いずれもうつ病の誘発が臨床上指摘されている薬物であるが、強制水泳試験での成績は一貫したものではなかった。 近年の時間生物学研究により、体内時計は精神疾患の発症に関与することを示唆する知見が蓄積されている。そこでうつ病のバイオマーカーとなる因子を探索することを目的に、体内時計中枢である視交叉上核における時計遺伝子発現リズムを測定した。インターフェロン-αにより、NPAS2 mRNA発現リズムの位相が12時間前進し、明期に発現量のピークを認めた。さらに、明期におけるPer1およびNr1d1 mRNAの発現量がインターフェロン-αにより増加した。他の時計遺伝子(Per2, Per3, Bmal1, Clock, Cry1およびRORα)の発現リズムや発現量には、インターフェロン-αを投与しても著明な変化は認めなかった。 NPAS2とBmal1のヘテロダイマーは、遺伝子発現調節領域のE-boxに作用して転写活性を促進することが知られており、Per1およびNr1d1遺伝子の上流にはE-boxが存在している。インターフェロン-αによるPer1およびNr1d1 mRNA発現量の増加は、NPAS2のリズム位相変化を介している可能性がある。
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