平成26年度までに、うつ病の誘発が問題となるインターフェロン-αをマウスに投与し、脳内各部位における時計遺伝子発現リズムを測定した。インターフェロン-α投与により、体内時計中枢である視交叉上核内時計遺伝子発現はある程度変容したものの、時計機構の破綻を示唆するものではなかった。一方、前頭葉皮質および海馬におけるPer3 mRNA発現量がインターフェロン-αにより有意に低下し、リズム振幅が減弱した。 平成27年度においては、臨床上うつ病の誘発が指摘されている他の薬物を用いて、脳内時計遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。実験には、抗マラリア薬であるメフロキンおよび抗てんかん薬であるトピラマートを使用した。期待された通り、これらの薬物を投与したマウスの海馬においてPer3 mRNA発現量が日内変動依存的に減少し、その発現リズムの振幅は対照マウスと比較して減弱することが明らかとなった。 前述の3薬を用いて強制水泳試験を行うと、インターフェロン-αの作用はメフロキンおよびトピラマートの作用と正反対であった。つまり、いずれもうつ病の誘発が指摘されている薬物であるが、実験動物を用いた行動薬理試験ではその危険性が正確に評価できないことが示された。一方、海馬内Per3 mRNA発現量に及ぼすこれら薬物の影響には一貫性が認められた。 今後、海馬内Per3遺伝子の転写調節機構に及ぼす薬物の影響を分子レベルで解明すること、さらにPer3遺伝子の発現リズム平坦化による下流シグナルへの影響を解明することが必要である。これらを解明することにより、時計遺伝子Per3に着目した新規抗うつ薬ターゲットの創出が期待される。
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