平成27年度は、神戸中央市民病院との共同研究で、潜在性高TSH血症の原因であるマクロTSH血症の頻度とその病態について検討した。 血清TSH値の測定は、甲状腺機能を最も鋭敏に反映する検査として、新生児クレチン症のスクリーニングなどに広く用いられている。甲状腺ホルモン補充療法の必要性は血清TSH値によって判断されるため、生物活性が低いマクロTSH血症を見落とすと患者は不要な治療を一生涯続けることになる。 本研究で、マクロTSH血症の頻度は潜在性甲状腺機能低下症患者1901人中15人(0.78%)であることが明らかとなった。マクロTSHの多くはIgG結合型TSHであり、TSHに対する自己抗体とTSHの免疫複合体である可能性が示唆された。本研究における血清TSH値の測定は、Fitzgerald社のanti-TSH beta monoclonal antibodiesを用いて研究室で作成したサンドイッチ酵素免疫測定法(EIA)を使用している。我が国で最も広く使用されているエクルーシス、ケンタウルス、アーキテクトのTSHアッセイシステムがマクロTSHを認識する程度を、比較検討した。アーキテクトが最もマクロTSHを認識しにくかったが、それでも60%の症例でマクロTSHと交叉反応を示した。この結果は、現在マクロTSHと交叉反応せず、生物活性のある真のTSHのみを反映するTSHアッセイシステムが存在しないことを意味している。 したがって、甲状腺機能低下症患者において甲状腺ホルモン補充療法を行う前には、ポリエチレングリコール(PEG)法によるマクロTSHのスクリーニングとゲル濾過法による確定診断を行う必要があると考えられた。
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