研究課題/領域番号 |
25460240
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
向後 晶子 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20340242)
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研究分担者 |
向後 寛 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20282387)
松崎 利行 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30334113)
野村 隆士 藤田保健衛生大学, 医学部, 講師 (20325161)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | DLG1 / convergent extension / コルチ器 / 平面内極性 / 器官形成 / ノックアウトマウス |
研究実績の概要 |
本研究は、器官形成における組織の伸長および癒合におけるDLG1の機能解明を目標としている。本年度は下記に示す研究を行った。 ①Dlg1遺伝子欠損マウスで見られる心臓および周辺大血管の先天奇形を分類し、それぞれの発症率を求めた。またDlg1遺伝子欠損により、大動脈と肺動脈の中隔を構築する心臓神経堤細胞の組織内分布に異常が見られることを見出した。これらの結果を昨年度までの研究結果と併せて論文を作成し、PLOS One誌にて発表した。 ②昨年までの研究で、Dlg1遺伝子欠損マウスのコルチ器で伸長不全と上皮細胞配列の乱れが生じることを明らかにしてきた。コルチ器の発生では、聴覚上皮を構成する未分化で一様な上皮細胞が、支持細胞と有毛細胞へと分化しつつ、相互の隣接関係が再編成され2種類の細胞が規則正しく交互に配置し、組織全体としては頂底方向に伸長することで組織構造が完成する。この伸長過程はconvergent extensionと呼ばれる組織運動によるとされるが、実際の発生過程では上述の通り細胞分化も並行しており、convergent extensionの典型例として研究が先行しているショウジョウバエの発生過程などに比べ複雑で、その機構には不明な点も多い。この過程でDLG1の機能を解明するためには、まず正常なコルチ器の伸長過程での組織構築過程の詳細を明らかにする必要があると考え、コルチ器の発生過程における各種の形態学的変化を数値化し、これを正常マウスとDlg1遺伝子欠損マウスとで比較することで、DLG1欠損による発生異常の数量的な評価を試みている。DLG1欠損マウスでは、正常マウスにくらべ、支持細胞間接着面の長さと向きのばらつきが大きく、細胞間接着面の退縮や伸長によるリモデリングの調節に異常が生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、DLG1が、PCPシグナル経路を仲介するとの仮説に基づき、その作用点を決定してDLG1の上流および下流で働くシグナルパスウェイ全体を同定するという当初の計画に則って開始したものである。本研究の開始時に解析を計画していた細胞内の微小管配置という観点からのDLG1機能解析については、技術的な問題等もあり、当初の計画通りには十分には進展していない状態である。 一方で今年度は、コルチ器発生過程の上皮組織構築過程、とくに上皮組織のリモデリング過程におけるDLG1の機能解析に着手することが出来た。これは、コルチ器発生過程の詳細な観察結果をもとに形態学的な指標を多数設定し、これらを計測することでDLG1機能の数量的な評価方法を確立するという新たな試みである。このような客観的な数値データに基づく評価方法を確立することは、DLG1以外にも、哺乳類でconvergent extensionに関与することが想定される各種因子の機能評価基準として広く有用であると考えられ、方針は一部変更したものの、当初の計画に匹敵する程度の進展が得られたと言える。 さらに当初は、本研究で得られた結果は最終年度を目途に論文を発表する計画であったが、これまでに得られた結果の一部を含む論文を、2015年4月にPLOS ONE誌にて発表することができ、この点では当初の計画以上の進展であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、本研究の最終年度となる。下記の方針に則って研究を進め、器官形成における組織の伸長、癒合におけるDLG1の機能の解明を目指すとともに、その結果を広く公開していく。 ①正常コルチ器発生におけるconvergent extensionの特徴づけ:正常コルチ器発生におけるconvergent extensionで見られる現象と、ショウジョウバエconvergent extension研究によって得られている知見とを照合することで、両者の共通点、相違点はどこにあるのか?またそれらにDLG1はどのように関わっているか?を明らかにしていく。 ②正常コルチ器発生の形態学的な評価基準となる複数のタイムテーブル(分化程度を横軸に、形態学的なインデックスを縦軸に表したもの)を作成し、Dlg1遺伝子ノックアウトマウスとの比較を行う。これによりDLG1機能欠損の影響を数値的に評価することができ、また他の遺伝子改変マウスの表現型との客観的な比較が可能となる。 ③DLG1機能の調節機構の解析:上皮細胞のリモデリング調節には細胞内の局所的かつダイナミックな調節機構が必要であると考えられる。DLG1がこの機構に関与するとしたら、その機能はどのように調節されているのかについて検証する。DLG1は別組織でリン酸化を受けるとの報告があるため、発生期のコルチ器での状況を検討しその機能的意義を考察する。 ④DLG1リン酸化に関する解析、コルチ器発生の形態学的な解析を推進するため、新たにそれぞれの分野に精通した研究分担者を追加する予定である。また得られた研究結果は、各種国内学会で発表するとともに論文としてまとめ研究期間内での国際誌への投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、平成26年度に計画していた実験の一部を行わなかったためである。その理由は、①平成26年度に、予定よりも早く論文投稿作業を開始し、その投稿および修正作業などがあったため、②海外を含めた周辺分野の研究進捗状況を鑑みて研究計画の見直しを行い、形態的な解析などを先行させることとしたため、③過去に科研費で購入し、本研究にも通常使用している実体蛍光顕微鏡が故障し、実体蛍光顕微鏡像の取得が不能となったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の実体蛍光顕微鏡の故障の修理費用に充当する。
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