研究課題/領域番号 |
25460242
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
宇田川 潤 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (10284027)
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研究分担者 |
岡野 純子 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (50447968)
早坂 孝宏 浜松医科大学, 医学部, 助教 (90415927)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 低栄養 / 胎生期 / 行動異常 |
研究概要 |
妊娠5.5日から10.5日、すなわち胚盤胞の着床直前から神経管閉鎖前までの時期において、母体に50%食餌制限を行ったところ、生後8週の仔ラットにおいてオープンフィールドテストで多動が認められた。また、強制水泳試験において無動時間に変化は認められなかったが、水泳時間の減少が認められた。そこで、生後9週の仔ラットにおいてHPLCによる脳内モノアミン定量を行ったところ、前頭皮質、線条体、海馬および中脳のセロトニン、ドーパミンおよびそれらの代謝物(DOPAC, HVA)、およびノルアドレナリン量に対照群と実験群の間で有意差が認められなかった。さらに前頭皮質および線条体においてmRNAの発現を検討したところ、ミトコンドリアに存在するSOD2などの代謝系遺伝子発現、神経栄養因子BDNFとその受容体であるTrkBの遺伝子、および結節性硬化症で多動の原因とされているmTOR遺伝子の発現には変化が認められなかった。一方、血清メタボローム解析により胎生期低栄養ラットではグリシン濃度の上昇が認められた。グリシンは抑制性神経伝達物質であり、ヒトの高グリシン血症の軽症例では多動が認められる。ただし、グリシンは脳脊髄関門の通過性が悪いためCSF中のグリシン濃度の定量が今後必要である。また、血清キシロースおよびリクソース濃度も胎生期低栄養ラットでは対照群と比較して約1/5と低値を示した。キシロースおよびリクソースは餌に含まれていると考えられ、低栄養ラットでは腸管からの吸収低下、あるいは漏出が生じている可能性がある。近年、腸機能や腸内細菌叢の変化と発達障害などの行動異常との関連が注目されてきており、胎生期低栄養ラットの行動異常と腸機能との関連を検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.オープンフィールドテストにより胎生期低栄養ラットに総移動距離および中心滞在時間の増加が認められたが、強制水泳試験において無動時間に差が認められなかった。したがって、胎生初期の低栄養により、仔ラットは多動を示すがうつ様状態ではないことが明らかとなった。 2.前頭皮質や海馬、線条体、中脳のモノアミン含量にも変化が認められなかったため、次年度以降に予定していた前頭皮質と線条体における遺伝子発現変化を検討したところ、mTORやミトコンドリア代謝系およびBDNFなどには変化が認められなかった。そこで、血清のメタボローム解析によりアミノ酸、糖、有機酸濃度などの網羅的解析を行ったところ、多動と関連するグリシン濃度上昇や腸管機能異常を疑わせる所見を得ることができた。 以上より、本年度は実験計画を一部変更したが、胎生期低栄養による行動異常の原因解明に向けて、おおむね研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.CSFおよび血中グリシンの定量を行い、グリシン濃度の異常がCSFにおいても認められれば、グリシン開裂系などの酵素活性を測定する。 2.モノアミンなどの神経伝達物質に対するニューロンの反応性を調べるため、モノアミン受容体遺伝子発現異常やシグナル伝達経路の活性化を検討する。 3.ミクログリアの活性化や脳内リン脂質分析について、引き続き組織学的に解析する。 4.RNAアレイにより妊娠10.5日胚の神経管における遺伝子発現異常の解析、およびChIP-seqによるエピジェネティクス変化の解析を行う。 5.腸管機能異常が行動異常に関連している可能性が考えられるため、腸内細菌叢の解析および腸炎の有無についての組織学的解析、あるいは腸管の吸収能など機能的解析を行う。
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