研究課題
妊娠5.5日から10.5日の母獣に50%食餌制限を行ったところ、生後8週の仔ラットにおいてオープンフィールドテストで多動や中心領域滞在時間の増加、および中心領域を横切る回数(crossing)が増加することを前年度までに明らかにしていた。本年度母体に60%食餌制限を行ったところ、同様にcrossingおよび中心領域移動距離の有意な増加や、中心領域滞在時間の増加傾向を認めた。生後9週仔ラットのCSFおよび血清のメタボローム解析によりグリセロールなどの糖の有意な変動が認められたため、視床下部の糖代謝系の遺伝子発現解析を行ったところ、ヘキソキナーゼ1 mRNAの発現低下が認められた。また、妊娠10.5日胚の神経胚組織をレーザーマイクロダイセクションを用いて採取し、RNAアレイより遺伝子発現を比較したところ、性腺刺激ホルモン放出ホルモンや神経幹細胞の発生・分化に関わる遺伝子、Hsd11b2やレプチン関連遺伝子、糖代謝や小胞輸送関連遺伝子の発現に変動が認められた。Hsd11b2やレプチンは不安などの情動に関連しており、糖代謝異常や膜輸送障害も神経機能異常の原因となることから、低栄養ラットでは神経幹細胞に生じたエピゲノム変化が生後の行動異常の原因となった可能性が考えられる。一方、前頭皮質、線条体および側坐核のミクログリアの免疫染色により、Iba1陽性ミクログリアは対照群、低栄養群共に観察されたが、CD11b陽性活性化ミクログリアはほとんど認められなかった。現在Iba1陽性ミクログリア数を計測中であるが、少なくともミクログリアの活性化による炎症性サイトカインの放出が行動異常の主原因ではないと考えられた。今後は上記遺伝子の変化およびミクログリアの神経回路維持や神経伝達調節機能に着目し、成獣での脳の解析を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
1.妊娠初期の60%食餌制限および50%食餌制限など複数回の試行により仔ラットが同様の行動異常を呈したことから、妊娠ごく初期のみの低栄養により生後の行動異常が惹起されることが裏付けられた。2.低栄養群と対照群でCSFのグリシン濃度に有意差は認められなかったが、CSFおよび血清メタボローム解析において糖類の濃度に変化が認められた。また、胎生期の糖代謝関連遺伝子および生後の視床下部におけるヘキソキナーゼ1遺伝子の発現変化を認めたことから、行動異常の原因の候補として糖代謝異常を検討する必要性があることが明らかとなった。3.RNAアレイ解析により胎生初期の低栄養による生後の行動異常発症のメカニズムやその原因となる遺伝子の候補を絞ることができた。
1.引き続き前頭皮質、線条体および側坐核のミクログリア数およびミクログリア活性化の解析を行い、ミクログリアと行動異常との関連について詳細を検討する。2.成獣の脳においてモノアミン受容体遺伝子発現やシグナル伝達経路の活性化を検討し、神経伝達物質に対するニューロンの反応性を調べる。3.成獣の脳における統合失調症関連遺伝子、Hsd11b2やレプチン関連遺伝子、糖代謝や小胞輸送関連遺伝子の発現について、real-time PCRにより定量的解析を行う。4.上記2,3において発現に変動がみられた遺伝子について、ChIP-seqによりエピジェネティクスの変化を調べる。5.統合失調症患者の脳内での分布に変化が認められるリン脂質に関し、質量顕微鏡を用いて胎生期低栄養ラットの前頭皮質内での分布および脂質構成を検討する。上記1から5の実験により、胎生初期の低栄養による神経胚のエピゲノム修飾や脳の脂質構成異常と生後の行動異常との関連を明らかにする。
質量顕微鏡による脳内リン脂質分析に関して標本作製が次年度にまたがり、次年度に一括して解析を行うことにしたため、次年度使用額が生じた。
質量顕微鏡による脳組織の解析費用として使用する。
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