本研究は、男性生殖系器官の発生・分化メカニズムを解明するために、各器官で発現している遺伝子・分子に着目し、その生体内分布・局在動態について、生殖生物学および機能形態学的視点から細胞・組織レベルで解析することを目的としている。本年度の研究成果を以下に示す。 1.精巣上体や前立腺は、精子の運動や生存に重要な役割を担っていることが分かっている。しかし、その分化メカニズムに関してはほとんど明らかにされていない。そこで、胎生期~成熟期マウスの精巣上体および前立腺上皮における細胞骨格・サイトケラチン分子の分布・局在について免疫組織化学的に調べた。その結果、サイトケラチンの発現は両器官の分化時期、領域、上皮細胞腫ごとで異なることが判明した。また、上皮の基底細胞には、背の低いタイプと背の高いタイプが区別され、それらは管腔上皮の生理機能に関与している可能性が示唆された。 2.近年、前立腺癌患者は我が国でも増加傾向にあり、その発症機構の解明が急務となっている。しかし、その基盤となる正常な前立腺上皮細胞の分化メカニズムについてはほとんど分かっていない。そこで、成熟マウスの前立腺上皮で発現する糖鎖について、レクチン組織化学法と免疫組織化学法を組み合わせた手法で調べた。その結果、前立腺の領域あるいは上皮細胞腫ごとで異なるレクチン結合パターンを示すことが分かった。この結果から、糖鎖構造の違いが上皮細胞の機能を生み出す可能性が示唆された。また、ある種のレクチンは上皮特異マーカーとして有効であることが示された。
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