本研究では男性生殖器のうち、近年医学的・社会的に大きな関心が寄せられている「不妊症」や「がん」に関連する精巣上体や前立腺に焦点を当て、これらの発生・分化メカニズムを解明するために、各器官で発現している遺伝子・分子に注目し、その生体内分布・局在動態および生理機能について、発生学および機能形態学的視点から細胞・組織レベルで解析することを目的としている。前年度(平成28年4月)に起きた熊本地震により、実験機器や組織標本が大きく破損し研究の進捗が遅延したため、本補助事業期間を1年間延長した。そのため、本年度は前年度の研究計画を補完する目的で遂行した。 精巣上体管における液性環境の維持・調節に重要な血液-精巣上体関門のタイト結合を構成するクローディン(CLD)分子11種の分布・局在を明らかにするため、各種抗体を用いて幼若期~成熟期マウスについて免疫組織化学的に調べた結果、タイト結合は複数のCLD分子で構成されていることが判明し、血液-精巣上体関門には複雑な制御機構が存在することが示唆された。また、一部のCLD分子はタイト結合の分化マーカーとして有用である可能性が示された。興味深いことに、ある種のCLD分子はタイト結合部だけでなく、上皮細胞同士の接触面に沿って局在することも判明し、接着分子としての機能を持つことが示唆された。さらに、精巣上体の各領域で観察された異なるCLDの局在パターンは、それぞれの機能の違いを反映していると推測された。
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