研究課題
心臓中隔や弁の前駆組織である「心内膜床」は心臓形態形成に特有の複雑な構造をつくりだすための重要な組織であり、その形成異常は様々な先天性心奇形の原因となることが知られている。したがって、心内膜床の形成を制御するメカニズムを解明することは基礎医学のみならず小児循環器学を中心とした臨床医学においても非常に重要であると考えられる。本研究では、Bone Morphogenetic Protein (BMP) 9およびBMP10とその受容体であるALK1によるシグナル伝達に注目し、心内膜床形成を制御する新規分子メカニズムの同定を試みている。前年度までの研究により、Notchシグナルのターゲット因子として知られるHrt転写調節因子の発現がBMP9/10-ALK1シグナルの活性化によって誘導されることが示された。そこで、本年度は心内膜床形成におけるHrt転写因子の意義について検討を行った。Hrt転写因子はHrt1/Hrt2/Hrt3の3つのアイソフォームを持ち、単独のノックアウトマウスでは心内膜床形成に顕著な異常は認められないことが知られている。我々はHrt1/Hrt2のダブルノックアウトを作製し、心内膜床形成に必須のプロセスである内皮-間葉形質転換(EMT)が誘導されず、心内膜床形成不全なることを見出した。また、このダブルノックアウトマウスでは、TGF-betaシグナルによって制御されるSlugおよびSnailの発現が低下していたことから、心内膜床形成の制御機構としてALK1シグナル、NotchシグナルおよびTGF-betaシグナルのクロストークが重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究により、BMP9/BMP10-ALK1シグナルの下流にHrt転写因子が存在することが示唆され、このHrt転写因子が心内膜床形成に必須のシグナル伝達であるTGF-beta経路を制御していることが明らかとなってきており、Hrt転写因子に関連する研究においては予定以上に解析が進展している。しかし、当初予定していたin vivo ChIPシークエンスの進行は使用する抗体の選定などにより停滞している。したがって、これら2つの達成度を合わせて評価するとおおむね順調に進展していると判断できる。
当初の計画ではすでに終了しているはずのSmad1/5抗体を用いたin vivo ChIPシークエンスの進行が停滞していることから、最終年度はこの解析を重点的に行う予定である。また、ALK1-Hrt-TGFbetaシグナルのクロストークを制御する分子メカニズムを解明するために、Hrt転写調節因子のターゲット因子の同定をMicroarrayおよびreal-time RCR解析似て検討する。
本年度は免疫染色を中心とした組織解析を主に行い、費用のかかる分子機能解析を来年度に持ち越したため、当初予定していた使用額を大幅に下回った。また、研究補助員の出産・産休により人件費も予定使用額を下回ったため、次年度使用額が生じた。
最終年度まで解析が継続すると予想されていた組織解析が本年度中に終了した。一方、大量の消耗品・試薬を必要する分子機能解析を最終年度に行う予定に変更し、重点的に解析を行う予定である。したがって、この繰り越しは研究計画遂行に全く影響しないと考えられる。
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Genesis
巻: 52 ページ: 897-906
10.1002/dvg.22825.