研究課題/領域番号 |
25460253
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
村上 志津子 順天堂大学, 医学部, 助教 (20255649)
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研究分担者 |
小池 正人 順天堂大学, 医学部, 教授 (80347210)
佐々木 光穂 順天堂大学, 医学部, 助教 (20432536)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | GnRHニューロン / セマフォリン3A / ニューロン移動 / エレクトロポレーション / ニワトリ胚 |
研究実績の概要 |
(1)生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)産生ニューロンは脳外から脳内へ移動し視床下部に定着する。ニワトリ胚における組織学的観察から、GnRHニューロンの脳内進入と進路変更に反発性軸索ガイダンス分子セマフォリン3A(Sema3A)が関与している可能性を想定した。本研究では生体におけるSema3AのGnRHニューロンに対する反発活性を検証するために、脳内の移動経路上にSema3A遺伝子を異所性導入し、GnRHニューロンの反応性を調べた。GnRHニューロンの脳内進入が始まる前の孵卵3.5日の前脳内側部にエレクトロポレーション法によりニワトリSema3A遺伝子(Watanabe et al., 2014)を導入し、3日後にGnRHニューロンの動態を調べた。前脳内側部へのSema3A遺伝子導入個体では、脳内に進入したGnRHニューロンは異所性Sema3A発現領域近傍で塊状となり、中隔背側部への移動が阻害された。また、正常発生ではGnRHニューロンは前脳内側部表層に沿って中隔背側部へ移動後、腹側方向へ分散するが、一部のGnRHニューロンはSema3A発現領域近傍で脳実質内に分散する傾向を示した。これらの結果は、脳内に発現するSema3AはGnRHニューロンの移動に対し反発性に作用することで、GnRHニューロンの脳内移動に重要な役割を果たしていることを示す。 (2)GnRHニューロン移動におけるSema3Aの作用に加えて、嗅覚系に発現しているソマトスタチン(SS)のGnRHニューロン移動に対する役割を知るために、孵卵3.5日嗅板組織のコラーゲンゲル三次元培養にて調べた。SS(1nM)あるいはSSアナログのオクトレオ チド(100nM)の投与により組織片から培地へ移動するGnRHニューロン数は有意に増加した。SSはGnRHニューロンの嗅神経に沿った移動を調節している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)ニワトリ胚前脳へのSema3A遺伝子の異所性導入実験により、生体内でSema3AがGnRHニューロンの脳内移動に対し反発性に作用することが証明された。これらの結果は、嗅球に発現する内在性Sema3AはGnRHニューロンの嗅球への進入を抑制することで、背尾側方向への移動を促進している可能性を強く示唆する。
(2)中隔背側部におけるGnRHニューロンの進路変更にSema3Aが関与する可能性については検証できなかった。進路変更地点である中隔背側部に至るGnRHニューロンの移動経路は前脳内側の狭い領域であることから、エレクトロポレーションによる遺伝子導入の成功率は低い。そのため、腹側方向への移動と視床下部定着が明確となる時期での解析が進まなかった。今後の課題である。
(3)嗅板組織のコラーゲンゲル三次元培養系において、GnRHニューロン移動に対するソマトスタチンの促進作用が判明した。発達中の嗅覚-前脳系に一時的に発現するソマトスタチンはGnRHニューロンの嗅神経に沿った移動を調節している可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)中隔背側部におけるGnRHニューロンの進路変更にSema3Aが関与する可能性を検証するために、Sema3A遺伝子の異所性発現実験を継続する。進路変更には軸索伸長の方向や細胞体の向きの変化、あるいはガイド構造となる神経線維束の形態変化などが伴うと考えられる。Sema3A遺伝子導入個体におけるGnRHニューロンの移動動態について、GnRHニューロン分布、GnRHニューロンの軸索伸長の方向、GnRHニューロンのガイド構造と考えられる嗅神経内側枝の走行との関係などに変化があるかどうか、形態的特徴を詳細に調べる。
(2)脳内において、GnRHニューロンはSema3Aに対し反発性に反応することが明らかとなったことから、中隔背側部におけるGnRHニューロンの進路変更にSema3Aが関与する可能性は高い。これを実証するために、GnRHニューロン上に発現するSema3A受容体に対する遺伝子機能抑制実験が必要である。進路変更の時期特異的にGnRHニューロン上のSema3A受容体ニューロピリン1の発現を抑制するドキシサイクリンを用いたコンディショナル遺伝子抑制システムの実験系開発が有用な方策と考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験手法の見直しを検討したため、実験動物を含む消耗品の支出が計画予定よりも少なくなり次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子導入実験を継続するために必要な実験消耗品の購入に加えて、得られた研究成果の発表準備を進めており、英文雑誌への論文投稿を複数予定している。そのための英文校閲代、論文投稿料として使用する予定である。
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