研究課題
基盤研究(C)
M細胞は腸管のリンパ性器官であるパイエル板の濾胞上皮に存在し、管腔内の抗原を取込み、粘膜免疫応答の開始に働く特殊な細胞である。上皮細胞と免疫応答開始機構の関係を理解するために重要であるだけでは無く、ワクチン開発など応用面でも着目されているが、その分化機構は明らかになっていないことが多い。M細胞は濾胞上皮に限局しているうえ、その10%程度しか占めていない。そのため従来の組織切片では解析が困難であった。本研究ではM細胞を効率良く解析する研究手法の開発を行った。パイエル板上皮をEDTA処理後機械的に剥離することで単層の上皮ホールマウント標本を作成する。これによって幹細胞が分化・増殖する陰窩から、上皮細胞の寿命が終わる頂部までFAE全体を一度に観察することが可能である。本方法を用いて二種類のM細胞発現分子M-SecとGP2の分布を蛍光免疫染色法を用いて調べた。それぞれの蛍光強度を定量し解析を行ったところ、M細胞にはM-Sec、GP2両陽性細胞とM-Sec陽性GP2陰性細胞の2つのサブセットが存在していることが明らかになった。後者のGP2陰性細胞はより陰窩に近いところで観察でき、管腔内に投与した蛍光ビーズの取込み能が前者の陽性細胞に比べて低いことから、未成熟なM細胞であると考えられる。このホールマウント標本をin situ hybridization法へと適用し、他のM細胞関連分子の発現をmRNAレベルで解析したところ、Spib,Anxa5,Ccl9, Pglyrp1の発現レベルは同程度であった。GP2陽性細胞と陰性細胞はM細胞の形態的特長を持っていた。これらの結果からGP2の発現量によってM細胞の成熟を可視化できると考えられる。方法は今後のM細胞の機能と分化機構の解析に大きく貢献することが期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
研究代表者が開発したパイエル板濾胞上皮のホールマウント法を用いることで、新規M細胞発現分子の探索の効率が上がった。その結果、初めのスクリーニングで4種類のM細胞特的分子を見出すことに成功している。そのうち2つの分子の遺伝子欠損マウスを手に入れ、解析に着手している。一方は転写因子であり、M細胞の成熟に関与している可能性がたかい。もう一つはサイトカインであり、こちらもM細胞分化の制御に関わっていることを示す知見が得られている。スクリーニングは現在も継続しており、in situ hybridization法の結果では10数種類の新規M細胞発現分子の候補を同定している。GP2陽性細胞への成熟は盲腸の濾胞上皮では抑制されていることを明らかにした。マウスの盲腸には常在菌が多数存在し、それに対する過剰な免疫応答が起こらないために、取り込み能の高いGP2陽性M細胞への分化が制御されていると考えられる。この分化抑制にはこれまでM細胞分化を制御していると考えられていた、CCL20-CCR6系は正常であった。そのため、新たな分化制御機構を明らかにする上で重要な実験モデルとなると考えられる。マウスでは腸管のパイエル板に相当する器官として、鼻腔内にリンパ小節が存在する。この鼻腔内リンパ小節はヒトのワルダイエル咽頭輪に相当すると考えられている。パイエル板の知見を基に鼻腔内の濾胞上皮の解析を進め、濾胞上皮にはパイエル板M細胞と発現分子、形態、機能のよく似た細胞が存在することを明らかにしつつある。鼻腔内のM細胞の性質を明らかにすることで、将来的な粘膜ワクチン開発へとつながることが期待できる成果である。
新規分子のノックアウトマウスの解析を行い、M細胞分化機構の詳細を明らかにする。とくに転写因子に着目する。盲腸M細胞の抑制機構を明らかにする。腸管上皮幹細胞をin vitroで培養する実験系が最近広く行われている。ここにRANKLを添加することでin vitroでのM細胞を培養することが可能である。この実験系を用いることで、小腸と盲腸におけるM細胞分化制御機構の違いを明らかにする。パイエル板M細胞の発現分子の探索を続ける。新規に見つかった分子に関しては鼻腔のM細胞での発現確認を行う。特に、細胞表面に露出している分子はワクチンをM細胞へと特異的に伝達するために利用できるため、重点的に探索を行う。現在、パイエル板M細胞ではホールマウントin situ hybiridization法が可能である。しかしながら、鼻腔奥のリンパ小節は周りを骨に囲まれており、脱灰処理が必要になる。脱灰処理後も感度を落とさずにmRNAを検出できる手法の検討が今度必要になる。
実験動物として使用しているマウスの匹数が計画よりも少なく済んだため。来年度の消耗品代として使用する。
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