研究課題
M細胞は腸管のリンパ性器官であるパイエル板の濾胞上皮に存在し、管腔内の抗原を取込み、粘膜免疫応答の開始に働く特殊な細胞である。上皮細胞と免疫応答開始機構の関係を理解するために重要であるだけでは無く、ワクチン開発など応用面でも着目されているが、その分化機構は明らかになっていないことが多い。本研究では新規に開発した濾胞上皮ホールマウント法を用いてM細胞の分化過程の解析を行う。昨年度までの研究からGP2の発現を指標にすることで成熟M細胞を可視化できること、盲腸では成熟M細胞がほとんど存在していないことを明らかにした。盲腸では管腔内に投与したラテックスビーズの取り込みが弱く、M細胞の成熟が抑制されていると考えられた。M細胞分化を強力に誘導するRANKLを用いて、腸管の一般上皮へと異所的にM細胞を誘導することが可能である。この実験系を用いて盲腸と小腸の比較を行ったところ、RANKL投与によって両者でM細胞の増加は認められたが、盲腸ではやはり成熟M細胞の出現は抑制されていた。これはRANKLはM細胞分化の開始には働くが、その後の成熟にはRANKLだけでは不十分であると考えられた。RANKLの下流の転写因子RelBについて解析を行ったところ、RelBの核内移行が盲腸M細胞では減少していること、RelBの核内移行が起こらない変異マウスではM細胞分化が起こらないことが明らかになった。これらのことから、M細胞の成熟にはRANKL刺激後にRelBの核内移行が必要であること、この核内移行が盲腸では何らかの理由によって、濾胞上皮で起こらないことで、盲腸M細胞の成熟が抑制されていると結論づけた。本研究はM細胞の成熟の可視化に成功し、そして成熟に係る分子を明らかにした研究であり、この分野における貢献度の高いものである。
2: おおむね順調に進展している
M細胞の分化に係る新たな分子機構を明らかにした。この研究成果は国際粘膜免疫学会の学術誌Mucosal Immunologyへと掲載が決定している。さらに、開発したホールマウント法を用いてM細胞発現分子を見出している。研究は現在、新規発現分子の機能解析、並びに鼻腔M細胞の解析へと発展している。
鼻腔M細胞の発現分子、機能、分化機構の解析を進めていき、論文投稿間近である。今年度中に成果を発表することを目指す。さらに、我々が見出した新規M細胞発現分子について、抗体作成やノックアウトマウスの導入など解析の準備を進めていく。
使用期限が短い3月末に使用する試薬の購入費と4月に必要となる実験動物の費用を予備費として計上した。
予定通り3月末に試薬を4月末に実験動物の購入を行っている。
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10.15252/embr.201438942
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