研究課題/領域番号 |
25460262
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
下田 浩 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20274748)
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研究分担者 |
磯貝 純夫 岩手医科大学, 医学部, 准教授 (60212966)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | がん血管・リンパ管性転移 / ゼブラフィッシュがんモデル / 生体ライブイメージング |
研究実績の概要 |
前年度までの研究実績により、fli1; egfpトランスジェニックゼブラフィッシュの受精後2-3日胚の心臓尾側体腔内に1~数個のヒトがん細胞をマイクロインジェクションすることでがん細胞のダイナミズムを追跡できるモデルならびにシステムを開発した。今年度はこのモデルをさらに改良し、がん細胞移植直後よりVEGFが遺伝子導入されたがん細胞1個の動きを追跡できるモデルを確立し、がん転移のプロセスとして想定されている血管・リンパ管への侵入・移動、脈管内から脈管外組織への移行の時間軸でのライブイメージングを試みた。 本モデルにおいてがん細胞は移植直後より活発に体内を移動した後、血管の外壁において細胞質突起を探触子のように伸ばし、細胞の形を適宜変化させながらアメーバ状の動きをもって血管壁に沿って移動した。その後がん細胞は、血管のある領域で細胞の一部の形態を変化させながら、さらに血管内皮細胞とせめぎ合いながら、血管壁の小裂孔を通過する様式と血管内皮細胞が細胞質フラップを広げてがん細胞を内腔に取り入れていくといった2つの様式をもって血管内への侵入を図っていた。さらに、血管内に侵入したがん細胞は血流に乗るよりむしろアメーバ様の動きをもって血管内皮に接して移動し、内腔が癌細胞径よりも狭い部位では血管の特異な分節運動をもって移動を行っていた。また、その移動経路の選択は内皮細胞との競合により決定されていた。生体内でのがん細胞の「動き」を中心とした血管転移ダイナミズムをライブイメージングで初めて明瞭に捉えた成果と考えられる。 しかし、リンパ管マスター分子を発現するリンパ管内皮細胞は移植がん細胞に対して移動、集簇する傾向を示したが、管腔形成は明らかでなく、転移機転は捉えられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
がん細胞の性質検定と個体間のばらつきを含めてがん細胞転移ダイナミズムを高い効率でライブイメージング可能な再現性の高い(ばらつきの少ない)モデルの改良に期間を要したこと、ならびに分子発現の時間推移が極めて早く通常の分子発現解析では正確なデータが捉えにくいことが遅れている理由としてあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後がん細胞の血管内から血管外への移行と組織定着への細胞動態を追跡できれば、がん細胞の血管を介した転移のダイナミズムの全貌を明確に把握することが出来る。これは世界で急がれている小型魚類を用いた今後全てのがん研究の基盤を成すことが予想されるため、まずこれを完遂させる。 これまでのがんに対するリンパ管新生については、リンパ管内皮細胞はがん細胞への移動・集積を示すが明瞭な管腔形成に乏しいことから、他のがん細胞に対する反応をさらに追跡する。 次に、これまでの静的な分子発現解析手法では本モデルの正確な分子発現データを捉えることが困難であるため、これまでの研究により転移制御分子の主軸と予想されるVEGF, angiopoietin系分子についてがん細胞への遺伝子導入またはゼブラフィッシュへの遺伝子導入・抑制を行い、それらのがん細胞ダイナミズムをこれまでに得られている成績と比較検討することにより制御分子の発現と作用を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
来年度の研究費の増額が見込まれるため、今年度の支出を抑えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
対年度の消耗品費に充てることとする。
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