研究課題
本年度はミトコンドリアとオートファジーについて以下のin vivo および in vitroの実験系を利用し成果を公表した。1)神経細胞特異的鉄代謝制御タンパク質IRP2Tg/parkin欠損二重変異マウスの黒質変性ダメージを受けたミトコンドリアにはparkinが局在化し、マイトファジーによる分解に導くという報告が数多くなされている。そこで、鉄代謝異常とマイトファジーとの因果関係を検討する目的で、神経細胞特異的に反応性に富んだ鉄を増加させたトランスジェニックマウス(IRP2 Tg)をパーキンソン病の原因遺伝子であるparkinの欠損(KO)マウスと交配し、解析した。その結果、parkin 単独欠損マウスが目立った表現型を示さないのに対し、IRP2 Tg parkin KO二重変異マウスの黒質神経細胞ではミトコンドリアにおける酸化ストレスの増大が認められ、電顕的にも黒質の領域特異的な神経変性を呈することが分かった。2)オメガソームマーカータンパク質DFCP1の内在性分子のミトコンドリアに関連した局在がこれまでDFCP1とオメガソーム関連はすべて蛍光タンパク質との融合タンパク質を発現させた細胞における動態の解析がもっぱらで、定常状態では蛍光が粗面小胞体(ER)とゴルジに局在し、飢餓状態でERに沿ってドット状のオメガソームの局在パターンに変化すると考えられてきた。我々は内在性DFCP1を認識する抗体を作成し、生化学的、組織化学的に特異性を検定した上でHela細胞を用いてその動態を検討した。その結果定常状態の細胞においても従来言われていたER-ゴルジパターンではなく、既にミトコンドリアに沿ってドット状の局在を示し、これがERと部分的に共局在することを見いだした。このことは定常状態の細胞のER-ミトコンドリアのコンタクトサイトが既にDFCP1陽性であることを強く示唆している。
2: おおむね順調に進展している
神経細胞特異的鉄代謝制御タンパク質IRP2Tg/parkin欠損二重変異マウスを用いたin vivoにおけるミトコンドリア品質管理機構についての組織化学的評価に成功し、共筆頭著者として論文発表に至った(Asano and Koike et al., Neurosci Lett. 2015)。上記二重変異マウスはparkin単独欠損マウスには認められない神経変性が黒質特異的に見いだされ、その機序が黒質神経細胞ではミトコンドリアにおける酸化ストレスの増大であることが示唆された。ヒトのパーキンソン病では異常なミトコンドリアの処理の不全が原因となる黒質を中心とするの神経変性が認められることが特徴の難治性神経疾患であるが、パーキンソン病の原因遺伝子の欠損マウスは数多く作られているが黒質に変性が認められるものはほとんどない。しかしこの二重変異マウスはミトコンドリアの病態を基点とするヒトパーキンソン病の病態に酷似する症状を呈す極めて良いモデルマウスであることが明らかとなった。加えて、in vitroのモデル系で、マイトファジーの過程で必須なオートファゴソームの形成の場を提供するオメガソームとよばれる構造体のマーカーであるDFCP1の内在性分子の局在がミトコンドリア-粗面小胞体(ER)のコンタクトサイトに由来する可能性があることを、DFCP1に対する特異的抗体を用いて初めて明らかにし、共筆頭著者かつ責任著者として論文発表に至った(Nanao and Koike et al., Biomed. Res. 2015)。この知見は通常のオートファジーのみならず、マイトファジーの機構とオメガソームの新たな関連を提唱する上でも重要な知見であると考えられる。
今後マイトファジーとDFCP1との関連をより明らかにするためには、微細形態レベルでのミトコンドリア・粗面小胞体(ER)・オートファジー(LC3)のマーカーとオメガソームのマーカーDFCP1の共局在の有無を明らかにする必要があるため、二重染色が可能で感度の良い免疫電子顕微鏡観察を行う必要がある。このため筆者が得意としている凍結超薄切片法の利用を検討する。オートファジーマーカーであるLC3については、光顕レベルの蛍光抗体法では容易に検出可能な抗体を用いても、凍結超薄切片を用いた免疫電顕で検出することは困難であった。現在ではLC3に対する抗体が数多く作成・販売されているため、GFP-LC3を強制発現させた細胞を用いて、免疫電顕に適したLC3抗体の探索を行う。DFCP1についても、今回得られた内在性の抗体が免疫電顕に検出可能か否か条件検討を行う。酸性コンパートメントについては既存のリソソームのマーカーの利用のほか、BSA-goldを取り込ませた細胞を用いた検討も行う。凍結超薄切片法ではオートファジーの形態の保持が比較的困難であることが知られており、ミトコンドリア-ERコンタクトサイトとオメガソームとの関係を明らかにするためには、形態の良好な保持を保つことが重要である。そこで過去の文献に従い、凍結超薄切片法での切片回収のための溶液に脂質の固定の効果を持つ酢酸ウランを加えたものを用いて検討を行う。培養神経細胞を用いたマイトファジーの凍結超薄切片法による免疫電顕による検討を行うため、細胞を単層のままゼラチンに包埋し、氷晶防止の後に凍結超薄切片を作成するflat-embedding法の系を新たに立ち上げ、それを利用してCCCP投与後のミトコンドリアについて上記マーカーを用いた免疫電顕を行う。
出張の旅程が予定より短縮されたため、その差額を次年度に使用するものである。
当該の予算計画に加えて、消耗品費として加えて使用する計画である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (22件) (うち招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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