腎臓の交感神経は、腎動脈の血流調節や尿細管における再吸収、傍糸球体細胞におけるレニン産生促進に働く。これまで明らかにした腎実質セグメント対応神経支配について、上記交感神経の標的細胞への分布を確認するため、主要神経節である腎上神経節(SrG)に蛍光遺伝子を導入し腎実質内での神経終末の分布を観察した。蛍光標識された神経線維は腎動脈に沿って腎頭側部実質内に進入し、細動脈や尿細管間質に交感神経の標的細胞接合部である結節状構造を呈していた。このことから、左側SrGニューロンは左側腎頭側実質を支配する交感神経であることが示され、腎セグメントに対応した交感神経節ニューロンの支配を確認することができた。また、この技術を用いることによりセグメント特異的に遺伝子導入を行えることを示唆した。 腎傷害にともなう自律神経系の活動変化を観察するために、腎神経叢を温存した腎虚血/再灌流(I/R)モデルの作成を行い、障害の経過と自律神経関連因子の発現を観察した。ラット左腎動脈と腎神経叢を剥離し、腎動脈にシリコン製ループを取り付けた。1週間養生後45分間の虚血を行い、再灌流後一定期間ごとに採材した。I/R腎は対照群に比べ、術後4日で有意に間質線維化領域が広がった。線維化は外髄質が最も多く、直血管周囲に異常が認められた。尿細管ではI/R処置後2時間で尿円柱が認められ、24時間で上皮性円柱が増加した。そして線維化進行とともに退縮尿細管が明確になった。神経関連因子は、I/R後4日でTH陽性線維の反応が強まったが、I/R後16週では差は認められなかった。アドレナリン受容体およびアセチルコリン受容体については、I/R処置による差は認められなかった。以上から、腎I/Rによる病態生理学的進行は、受容体の発現変化よりも交感神経活動亢進が主導因子となり、特に直血管への影響がその要因になると考えられた。
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