腸管神経系は主に迷走神経堤に由来することが知られていたが、本研究により、大腸においては約2割の神経細胞が、腸管に投射する外来神経線維に由来するシュワン細胞系譜(体幹、坐骨神経堤由来)であることを明らかにした。最終年度内にこの成果を国際シンポジウム(ロッテルダム)で発表し、国際学術雑誌に掲載した。 大腸において迷走神経堤由来の神経新生は主にマウス胚15.5日目あたりから顕著になるのに対して、今回発見したシュワン細胞系譜からの神経新生は出産前後から認められ、生後に成熟していく。シュワン細胞系譜からできた神経細胞は主にカルレチニン陽性の、興奮性運動神経もしくは、介在神経細胞になることを明らかにした。シュワン細胞系譜の神経細胞の生存シグナルを欠損させてやると、大腸終末部の神経叢の神経細胞の数が優位に減少したことから、シュワン細胞系譜からの神経新生は神経叢の形成に不可欠であることが示された。 腸管神経系を構成するグリア細胞は迷走神経堤由来の星状グリア細胞と、外来神経線維に沿って腸管に到達するシュワン細胞が混在していると考えられていたが、それを識別する良い分化マーカーがないため、形態的な違いでの判断されてきた。本研究では遺伝学にシュワン細胞系譜の細胞の運命付けをおこない、小腸、大腸での異なる存在パターンを明らかにし大腸では、筋層間神経叢と粘膜下神経叢のどちらにも存在することを明らかにした。 ヒトにおいて大腸遠位部の神経節が先天的に欠損している疾患(ヒルシュスプルング病)が知られている。シュワン細胞系譜からの神経新生の異常がこの疾患の新たな発症原因である可能性は十分考えられるので、今後のさらなる研究で明らかにしていきたい。さらに生後の神経新生は神経叢を維持、補償するはたらきも期待されるので、今後研究を発展させていきたい。
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