研究課題/領域番号 |
25460280
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
松浦 哲也 岩手大学, 工学部, 准教授 (30361041)
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研究分担者 |
田桑 弘之 独立行政法人放射線医学総合研究所, 分子イメージング研究センター, 研究員 (40508347)
坂田 和実 岩手大学, 工学部, 助教 (80261163)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳微小循環 / 機能補償 / マウス / バレル野 / ニューロン活動 / 可塑的変化 |
研究概要 |
ニューロンが蓄えることのできるエネルギー量は限られているため,脳に対する絶え間ない血流供給は,その恒常性を維持する上で有効である。計測技術の発展にともない,脳はエネルギー代謝の需要と供給のバランスを維持するために,自身の血流量を繊細な機構によって調節していることが明らかにされ, 1世紀以上におよぶ課題は徐々に解決されつつある。一方で,脳の局所領域における酸素代謝量とそれにともなう脳血流増加量の不一致(酸素代謝と脳血流のアンカップリング)や関連する血管調節因子の決定など解決すべき生理学的課題も残されている。 本研究では,覚醒状態のマウスから脳血流を測定できる実験システムを開発し,正常な生理状態を維持した条件下での脳機能マッピングや脳血流動態の測定を行った。具体的には,1、ニューロン活動と脳血流量変化の同時計測,2、脳血流量動態(赤血球の挙動)変化と脳組織における局所酸素消費量の同時計測法の開発である。新たに開発した実験システムを利用し,覚醒マウスにおける失われた機能の補償機構について,ニューロン活動と脳血管反応性を関連付けた研究を展開している。 げっ歯類は周囲の環境情報を頬ヒゲを利用して感知する。その情報は大脳皮質体性感覚野に伝達される。げっ歯類体性感覚野には特徴的なバレル野が存在し,各ヒゲからの感覚入力は対応する各バレル構造で処理される。これまでに,幼児期にバレル野の一部機能を失った領域では,それを補うために他のバレル野がより強く活性化されることを明らかにした。感覚機能の補償にはニューロン活動の変化と,それに対応する血管反応性の変化をともなう。可塑性が脳内のどのような「仕組み」によって引き起されるかを解明することは,リハビリテーションへの応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス幼児期に頬ヒゲ受容器細胞の外科的除去により,ヒゲ感覚を一部欠損した個体を作成した。その後、通常飼育により成体まで成長した個体を用いて解析を行った。25年度は,ヒゲ感覚の欠損によるバレル領域の血流動態とニューロン活動との時間的・空間的関連性について明らかにすることを目標とした。しかし,頬ヒゲ受容器細胞の除去方法の確立に時間を要したため,以下に示す各課題についてはやや遅れが生じている。 ①ヒゲ感覚の一部欠損による体性感覚野バレル領域の構造とニューロン応答の変化:膜電位感受性色素(RH1691)を用いた外因性イメージングにより,ヒゲ感覚一部欠損個体における体性感覚野バレル野ニューロン応答については評価できたが,構造変化は未確認である。組織形態学的観察は26年度のテーマとするが,バレル野のニューロン群に応答変化が認められたことから,感覚除去の方法を変更することなく今後の実験を展開する。 ②レーザースペックル血流計測法による血流動態の定量的解析:レーザースペックル血流計測法により,脳血流二次元マッピングの慢性測定を行った。覚醒マウスのヒゲ刺激にともなうバレル領域での血流量変化を定量的に評価し,感覚欠損群とコントロール群で比較した。前述のように,外因性イメージングによるニューロン活動とレーザースペックル血流計測法による脳表血流量変化の同時計測に成功したが,これらシグナルの妥当性についての確認は26年度に持ち越すことになった。
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今後の研究の推進方策 |
25年度に達成できなかった「感覚の一部欠損によるバレル野における構造変化」については,可能な限り早い段階で行いたい。26年度は「ニューロン活動と脳表血流量の同時計測技術の新たなシステム開発」に取り組む。さらに,二光子励起レーザー顕微鏡を使用し,機能補償にともなう血管構築と対応部位での血流速度について解析を行い,これまで得られなかった空間分解能で形態学的・生理学的変化を捉える。 具体的には,補償部位における血流速度の変化を求め,機能補償にともなう血流動態や血管分布の変化を明らかにする。蛍光色素の大腿静脈への注入により得られる脳表血管の色素分布から,脳表動脈から静脈への血流移動時間は1.3±0.6秒であることが明らかにされているが,細動脈と細静脈の間には多数の毛細血管が複雑に連絡し血管系を構成している。そのため,前述の時間は細動脈から細静脈にいたる血流の移動時間を計測したに過ぎず,血管系の形態学的構築を行わなければ正確な血流速度を計測することができない。二光子励起レーザー顕微鏡による形態観察を行い,細動脈-毛細血管-細静脈間の連絡を構築し,得られた結果をもとに血流移動時間をシミュレーションすることで血流速度を算出する。 さらに,血管調節因子の協調・拮抗関係を解明する。血管系の再構築には,様々な血管調節因子の関与が考えられる。アストロサイトは,ニューロン活動にともなって局所的に放出されるグルタミン酸を受け取り,様々な血管調節因子の産生に関与している。血管調節因子の放出にはアストロサイト内のカルシウムイオン濃度の上昇が必要であると同時に,それら調節因子の産生には各々に対応する酵素が必要となる。局所的なカルシウムイオン濃度は感受性色素の波長変化を二光子励起レーザー顕微鏡で検出する。また,各種血管調節因子は関与する酵素活性を薬理学的に制御し,血流動態や血管反応性を観察する。
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