これまでの研究において、ヒトTMEM16Fがイオンチャネル機能とリン脂質スクランブラーゼ機能を併せ持つことを明らかにしている。またリン脂質スクランブラーゼ機能が細胞外クロライド濃度依存的に変化したこと、クロライドチャネル阻害剤により抑制されたことから、リン脂質スクランブラーゼ機能がクロライドチャネル活性により制御されることを見出している。そこで本年度は、リン脂質スクランブラーゼ機能が亢進するヒトTMEM16F変異体(D408GおよびD408E)において、チャネルゲーティングがどのような影響を受けているのかについて検討するため、パッチクランプホールセル記録法を用いて野生型TMEM16Fおよびその変異体のテール電流を観測した。細胞内遊離カルシウムイオン濃度上昇により生じた野生型TMEM16Fテール電流の脱活性化過程は二次指数関数でフィットできたことから、TMEM16Fチャネルのゲーティングには開状態と閉状態だけでなく、第三の状態があることが明らかとなった。またD408GおよびD408E変異体を過剰発現させたHEK293T細胞において、TMEM16Fテール電流の脱活性化速度は、野生型TMEM16Fを過剰発現させた細胞におけるテール電流の脱活性化速度と比較して有意に遅くなった。これらの結果から、TMEM16Fのリン脂質スクランブラーゼ活性の変化がイオンチャネルゲーティングにも影響することが明らかとなった。本研究により、ヒトTMEM16Fのイオンチャネル機能とリン脂質スクランブラーゼ機能は連関して制御されていることが示唆された。
|