研究課題/領域番号 |
25460284
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森 大輔 名古屋大学, 脳とこころの研究センター, 特任講師 (00381997)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 統合失調症 / ニューレグリン / DISC1 / 細胞内輸送 |
研究実績の概要 |
HA-Neuregulin-1トランスジェニックマウスを使用したDISC1のin vivo機能解析 Neuregulin-1は神経系組織などで発現するEGF様成長因子であり、その分泌量の適切な制御は脳機能が正常に機能するためには必要不可欠なことである。Neuregulin-1は前駆体型で産生され、ゴルジ体から細胞膜までDISC1分子の制御下で輸送され、プロセシングを受け分子内切断されると、成熟型Neuregulin-1が細胞外へと分泌される。そのようにして放出された成熟型Neuregulin-1はリガンドとして、EGFR/ErbB受容体に結合し、下流のシグナルを活性化することが知られており、その一連の制御に乱れ、シグナル伝達型が生じることがシナプスの機能を低下させ、統合失調症などさまざまな精神神経疾患の遠因となっていると考えられている。このような仮説のもと、DISC1ノックアウトモデルマウスにおいて、内在性Neuregulin-1の分泌量の解析を試みた。しかし、Neuregulin-1は膜貫通型分泌性因子であり、発現量も非常に少ない。そのため、正確な細胞外への分泌量を定量することは、非常に困難であった。本研究では、DISC1がNeuregulin-1の分泌量を制御する分子メカニズムを明らかにし、その分泌量を正確に測定するため、性格の異なる二種類の変異マウスを準備した。共同研究者のLin Mei博士より、細胞外領域のEGFドメインの上流にHAタグ配列を挿入し、神経細胞特異的に発現するNeuregulin-1 TGマウスの供与を受け、交配を繰り返し、DISC1およびHA-NRG1マウスのダブルホモマウスを得ることに成功した。このマウス由来の大脳組織切片および培養海馬神経細胞よりNeuregulin-1の分泌を調べたところ、DISC1ノックアウトマウスにおいていずれもその分泌量が減少していることを明らかにした。 H27年度はそのDISC1によるNeuregulin-1分泌の制御機構について、更なる分子細胞生物学的解析および組織学的解析を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的に、内在性の成長因子の分泌量を測定することは容易ではない。特に初代培養神経細胞の場合は腫瘍細胞のように増殖することが不可能である。ましてや、in vivoで Neuregulin-1のような膜貫通型分泌性因子の正確な細胞外への分泌量を定量することは、その発現量が非常に少ないために非常に困難であった。本研究では、DISC1がNeuregulin-1の分泌量を制御する分子メカニズムを明らかにし、その分泌量を正確に測定するため、変異マウスを準備する必要があった。第一に、共同研究者のLin Mei博士より、細胞外領域のEGFドメインの上流にHAタグ配列を挿入し、神経細胞特異的に発現するNeuregulin-1 TGマウスの供与を受けた。このマウス由来の大脳組織切片および培養海馬神経 細胞よりNeuregulin-1の分泌を調べたところ、DISC1ノックアウトマウスにおいていずれもその分泌量が減少していることを明らかすることが出来たので、最も研究の重要な点を抑えることには成功した。 しかし、分泌制御を可能にするプラスミドベクターを作成することには成功し、培養海馬神経細胞での解析には十分使用できるものの、そのプラスミドベクターをマウスゲノムに組み込んだトランスジェニックマウスの作成はこれまでのところ成功しなかった。そのマウスを使用した研究も成果が出始めており、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
内在性のHA-Neuregulin-1発現トランスジェニックマウスを利用し、DISC1ノックアウトマウスと交配することによって得られる脳組織および初代培養神経細胞から得られる生体組織の分子細胞生物学的解析を行う。具体的には、Neuregulin-1の細胞内輸送の調節分子であるDISC1やARFタンパク質との相互作用による分泌制御を明らかにする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
動物実験については計画通りの進捗であったが、平成26年度に所属の変更に伴う研究室の移動があり、当初の研究計画の中でマウスモデルを利用した分泌測定実験の実施回数が不足していたため、平成27年度への未使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
動物実験の飼育費や、分子細胞生物学的解析の消耗品費、論文化のための画像解析用ソフトの購入を予定している。
|