研究課題/領域番号 |
25460288
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
竹内 裕子 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (10324823)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 感覚生理学 / 電気生理学 / ケージド化合物 / 嗅細胞 / 線毛 / ナノ / 情報伝達 / セカンドメッセンジャー |
研究概要 |
外界と接する感覚神経細胞の中でも嗅覚を司る第1段階の嗅細胞の情報伝達カスケードに関与するチャネル特性をケージド化合物を用いて検証した。今年度は、単離嗅細胞にパッチクランプ法を適用し、単一細胞からの情報変換チャネル電流を記録、解析した。線毛内の分子の中でも、情報変換カスケードのセカンドメッセンジャーであるcAMPは細胞内に導入しているケージド化合物(ケージドcAMP)の光解離によって生じ、CNGチャネルを直接開口させる。サードメッセンジャーであるCaは開口したCNGチャネルを通って流入したCaがCl(Ca)チャネルを開口させ、電流発生を引きおこす。線毛全体を網羅して光刺激を2連続で行った場合、2回目の光刺激に対する応答電流は1回目の刺激よりも減少した。これはadaptationの効果であり、これはシリアを一部分だけ刺激した場合でも、両者のadaptationの応答、回復過程が同じタイムコースを示し、シリアの1部分での挙動と全体での挙動は直線的な傾向にあると示唆された。つまり、adaptationの影響が長軸方向へ伝搬してない可能性が示唆された。また、シリア全体を光照射した場合、ホールセル達成後の時間経過に伴い、応答電流のfalling phase のHalf Decay Timeがホールセル後の時間に依存して延長した。この現象は、ケージドcAMP、ケージドCaで見られたが、細胞外溶液に含まれるCa濃度を下げた場合には、falling phaseの延長傾向が顕著であった。これらのことから、生理的状況下における嗅細胞線毛は、カルシウムイオンの影響を大きく受け、adaptationや酵素などのカルシウムフィードバック機構に関与していると考えらえる。これらの実験結果は、光解離により生じたそれぞれの情報伝達因子(cAMPやCa)が線毛内に一定時間留まっている可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は微細構造体である線毛に対して、ケージド化合物を導入してから光刺激による電流応答記録を取得し、解析を行った。研究の途中で、市販していたケージド化合物の生産・販売終了が知らされ、これまで用いていたケージド化合物からやむなく新規種ケージド化合物への転換が余儀なくされたこと経緯から、実験計画よりも多少の遅れが生じた。ケージドcAMPやケージドCaは光感受性の試薬であるため、試薬の劣化が甚だしい場合には実験に用いることができない。例えば、ホールセル達成と同時に、解離してしまっている分子が電流発生を引き起こす現象がみられる。また、ケージド化合物には化学構造の異なる種類があり、生体細胞へ適用する場合には、まず濃度依存性や時間依存性などのテストをして、嗅細胞における試薬の特性を明確にする必要がある。基礎データの収集に時間を要したため、研究進捗が遅れた可能性が強い。次年度は、新規ケージド化合物の特性をベースとして実験計画を再度構築する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、更に線毛内因子の動向をパッチクランプ法をベースにして検討する。線毛の一部分の刺激により、細胞内因子の長軸方向への拡散(移動)の有無や、そのパラメータを定量的に示し、ナノスケール構造体内での分子挙動を明らかにしたい。また、世界規模で試薬業者がケージド化合物の生成・販売を縮小していることからも、質劣化のない試薬を継続的に獲得する方法も模索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度中に購入予定の試薬などが生産・販売中止などにより、購入できなかったため。 次年度は当該試薬以外の試薬を使用することを念頭に入れ、実験計画をたてる。具体的には、NPE-caged cAMPの生産が無くなってしまったので、同様の性質を有しながらも、異なる化学構造を持つ物質に切り替える。
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