研究課題/領域番号 |
25460288
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
竹内 裕子 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (10324823)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 線毛 / 情報変換 / パッチクランプ / ケージド化合物 |
研究実績の概要 |
匂いセンサーである嗅神経細胞は鼻孔内上部の嗅粘膜内に位置し、嗅覚受容の第一段階の情報変換を行う。匂い物質の持つ、化学情報を生体電気信号へと変換する際の分子の挙動を定量的に検証した。ナノスケール構造体である線毛内での分子ダイナミクスを実時間で定量的に測定するために、①コンフォーカル顕微鏡を用いた微細構造の可視化、②電気生理学的手法(パッチクランプ法)を用いた電流解析、③ケージド化合物(cAMP・Ca)を用いた光解離による線毛内物質濃度制御、④蛍光インジケータ(Fluo4・5・8)を用いた線毛内でのCa2+濃度変化の可視化、という4点の技術とシステムを同時に嗅細胞に適用して実時間データ(電流波形・画像)を取得し、ナノスケール構造体線毛における分子ダイナミクスの定量的な解析を試みた。①-③に関してはデータ取得を引き続き行っているが、④は未だナノスケール構造体内での濃度変化を測定するための蛍光インジケータのパラメータや取得設定について試行錯誤している。その理由として、カルシウムイメージングの精度と装置の取得限界との関係があげられる。ナノスケール構造体内での濃度変化は高いSV比を持つことから、分子の低い濃度変化により機能発現へとつながる。また、濃度変化のタイムコースはミリ秒オーダーであることからも、取得装置のスキャンスピードよりも構造体の長軸方向での濃度変化のスピードが勝った場合には、正しい濃度変化を取得しきれないという現象が生じる。つまり、本事象を観察・測定するための装置に改良の余地があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的として、①-④の項目を上げている。現時点では、①-③においては、恒常的なデータ取得、解析を進めている。①では、コンフォーカル顕微鏡を用いて、直径100-200nm、長さ10μm程度である微細構造を蛍光色素と高いNAを持つレンズを使用することで可視化する系を確立している。②では、パッチクランプ法により、線毛に発現しているチャネルを流れる電流を測定した上、解析することで、細胞の興奮システムを定量的に説明できる。③では、ケージドcAMP・ケージドCaを用いた。ケージドcAMPを用いることで、匂い物質の刺激無しに、cAMPで誘起されるCNGチャネルとそれに引き続くCl(Ca)チャネルの情報伝達チャネル電流発生を促すことが可能となり、非線形増幅過程を定量的に調べることが可能である。また、光刺激であるため、匂い刺激よりも定量的に刺激を制御でき、得られた電流応答の電気生理学的特性を調べられる。更に、ケージドCaを用いることで、線毛内のCaイオンの影響を調べることが可能である。特に、Caは細胞内で多様な働きを担う。線毛においては、Cl(Ca)チャネルを直接開口する働きもあるが、ACやPDEなどの酵素活性への修飾、カルモジュリンなどのCa結合タンパク質への結合と機能など、多くのタンパク質や酵素と結合する可能性があることからも、Cl(Ca)チャネルへの結合・電流応答を測定・解析する際には、その他の可能性も考慮することが必要である。この点に関してがは、次年度の実験で検証したい。最後に、④においては、研究実績の概要に示したように現時点で様々なパラメータを試行錯誤している。以上の点から、初期設定した目標に対しては、概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進に関して、平成27年度に予定している研究計画・方法に加え、現在残されている本研究における疑問点を解消するため、以下のポイントを重視した研究推進方策を立てる。まず、当初の平成27年度の研究計画にある嗅神経細胞におけるcAMP・Ca2+物質のクリアランス機構解明、装置の開発に関しては、引き続き検証・開発を行う。関連して、蛍光インジケータのパラメータや取得設定に関しても、引き続き検証を行う。蛍光インジケータではFluo4・5・8のみではなく、より早く、より低濃度での反応が可能になるような異なる色素を試すことも考える。その際には、使用するレーザー波長も考慮に入れ、ケージド解離に必要な351・364nmと重ならないようなものを選択する。またスキャン画像の取得設定に関しては、スキャンする範囲をより小さく、詳細な部位として選択することでスキャン時間の短縮化が可能となったり、線毛の走行をより水平に保つことでスキャン時のロスを少なくすることが可能となったりするであろう。ミリ秒単位で、マイクロメートル範囲での微小区画での蛍光変化を可視化することをまず目的とする。また、ケージドCaを用いることによって、線毛内でのCaイオン増加に伴って引き起こされるCaイオン依存性各タンパク質・酵素への影響を検証していく。これらの知見を踏まえることで、最終的に、嗅覚情報変換機構に関与する物質の挙動を説明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、1)平成26年6月に所属研究室の建物の上階に居住する他研究室からの大規模な水漏れ事故により、研究が一時的に停止してしまったことから、計画的な予算執行になり得なかったこと。2)物品購入の選定に伴う計画進行の遅延、があげられる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度前期中に、本年度実験計画で必要となっていた機器や部品の購入を進める。特に、細胞実験に必要な試薬類、実験動物類、電気生理記録に必要な電子部品類などを中心に使用する予定である。
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