研究実績の概要 |
本研究課題では、嗅覚の第一段階を担う嗅覚神経細胞の情報変換機構を分子的に解明するため、嗅細胞線毛を実験試料として用い、その線毛上に発現している情報変換チャネル(cyclic nucleotide-gated channel, calcium-activated chloride channel)をターゲットとした。これらのチャネル活性を測定するために、電気生理学的手法を用いて、細胞実験を行った。しかし、嗅細胞線毛の構造は、一般的な細胞とは大きく異なり、直径が100 nm程度と可視光線よりも小さい。従って、生きた嗅細胞の線毛からの電気記録を取得することは難しく、一般的な市販されているセットアップでは不可能であった。そこで、以下の4種類の実験技術を1つのセットアップの中に組み合わせて実験データを取得することを目的とした。① コンフォーカル顕微鏡と高NA・高倍率の対物レンズを用いた線毛の可視化、② パッチクランプ法を用いた電流測定、③ ケージド化合物(ケージドcAMP・ケージドCa)の光乖離による線毛内のセカンド(サード)メッセンジャーの濃度制御、④ 蛍光試薬を用いた線毛内カルシウム濃度の実時間可視化、である。その結果、情報変換チャネルを流れる電流を測定し、その際のイオンチャネルを開港させるセカンド(サード)メッセンジャーの実時間挙動を解析した。線毛内での分子動態はバルクの大きな細胞等とは異なり、存在密度の高さや時系列による変化が遅いことが示唆された。
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