研究実績の概要 |
申請者は、発生初期鶏胚の網膜内に正の直流電位が存在し、その振幅は網膜の周辺部で大きく、中央部から腹側へ向かう電位勾配が形成されることを発見した。さらに、網膜神経節細胞の軸索はこの電位勾配に従って伸長することを明らかにした (Yamashita, M., BBRC 431: 280-283, 2013)。これを再現するために、平成27年度では定電場培養システムを開発し、網膜神経節細胞の軸索伸長を電気的に誘導することに成功した。 平成26-27年度では、網膜神経節細胞の軸索を誘導する電場強度を求めるために、一定の電位勾配が設定できる培養システムを開発した。孵卵6日目の鶏胚網膜から、視神経乳頭より背側の部分を切り出し、この網膜切片を、軸索伸長の足場となる基底膜分子(ラミニン・コラーゲン)を含むMatrigelに包埋して24時間培養した。網膜切片を挟む2点の電位差を常時記録し、この電位差が一定となるようにフィードバック回路を設計し、培養液に直流電流を通電した。軸索の染色には、生細胞の蛍光染色に用いられる蛍光色素(calcein-AM)を用い、共焦点顕微鏡にて蛍光撮影した。その結果、電場強度が0.0005 mV/mmから電位勾配に従う伸長が見られ、0.2-0.5 mV/mm以上では電場に沿った軸索の直進が観察された。以上の結果から、発生初期の網膜に内在する電位勾配 (15 mV/mm) は、網膜神経節細胞の軸索を視神経乳頭へ正確に誘導するのに充分な電場強度であると結論された。 以上の結果を論文として発表するとともに(Yamashita, M., Biochem. Biophys. Rep., 4: 83-88, 2015)、国際学会(IBRO2015)、及び、国内学会にて発表した。
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