発生初期の網膜には、将来の視神経乳頭へ向かう細胞外電位勾配が存在し、網膜神経節細胞の軸索はこの電位勾配に誘導されて伸長する。本研究ではこの分子メカニズムを解明するために、一定の電位勾配が設定できる培養システムを開発し、電場により軸索膜表面で非対称的に活性化される分子の同定を試みた。その結果、インテグリンと細胞外Ca2+が関与することを明らかにした。 孵卵6日目の鶏胚網膜を用い、視神経乳頭より背側の領域から網膜切片を切り出し、Matrigelに包埋して24時間培養した。網膜切片を挟む2点の電位差を常時記録し、2点間の電位勾配が、発生初期の網膜に内在する電位勾配 (15 mV/mm) となるように培養液に直流電流を通電した。Matrigelは、網膜に存在する細胞外基質タンパクであるラミニンとコラーゲンを含み、これらはインテグリンのリガンドとして機能する。 網膜神経節細胞の軸索は細胞外電位勾配に沿って陰極側へ伸長した。抗インテグリン抗体をMatrigelに添加すると陰極側への伸長が促進された。また、EGTAの添加により細胞外Ca2+濃度を低下させても陰極側への伸長が促進された。これらから、電気的軸索誘導にインテグリンが関与すること、及び、ミリモル濃度のCa2+は軸索伸長に対して抑制効果を及ぼすことが示唆された。 本研究から、細胞外電位勾配が起こすCa2+流により細胞膜表面におけるCa2+濃度が非対称になった場合、陽極側の軸索膜表面では陰極側の膜表面よりCa2+濃度が高くなり、陽極側ではインテグリンの活性が抑制され、一方、陰極側では亢進されると考えられる。インテグリンの活性化は細胞骨格分子の重合を引き起こすので、電場によりインテグリンの活性が非対称になると、軸索内における細胞骨格分子の重合も非対称となり、その結果、軸索は陰極側へ伸長すると考えられる。
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