研究実績の概要 |
海馬はエピソード記憶の形成に中心的な役割を持つ。海馬には時間情報 (Mitsushima et al, J Neurosci 2009)や空間情報 (Wills et al, Science 2010)が入るが、符号化ルールは未解明で、脳内情報量(bit)の定量化には誰も成功していない。申請者はラットを用い、AMPA受容体の興奮性シナプスへの移行を阻止すると回避学習が成立しないことから、AMPA受容体のシナプス移行が学習成立に必要であることを証明した(Mitsushima et al, PNAS 2011)。 回避学習はAMPA受容体を介する興奮性シナプスの可塑性だけでなく、GABAA受容体を介した抑制性シナプスの可塑性も高める結果、個々のCA1ニューロンが複雑かつ多様なシナプス入力を保持した。また、学習依存的な興奮性シナプスの多様化や抑制性シナプスの多様化はACh受容体阻害薬で局所的に阻止でき、さらに、両側海馬で多様化を阻止すると学習が成立しないため、シナプスの多様化はCA1ニューロンの記憶痕跡であると考えられた(Mitsushima et al, Nature Commun, 2013)。 本研究で、自由行動状態の海馬CA1における多ニューロン発火活動とシータ波を同時記録し、エピソード学習をさせると、シータ波の頂点位相に同期した、短いバースト状同期発火(リップル波)が見られた。さらに、リップル波の構成ニューロン数、周波数、長さが多様化する事実もつかんだ。エピソードの30分後にも多様なリップル波の挿入が維持され、個々のCA1ニューロンへのシナプス入力をスライスパッチクランプ法で解析すると、興奮性シナプスと抑制性シナプスが多様に強化されていた。興奮と抑制で描き出されるシナプス可塑性のパターンを二次元カーネル密度解析し、異なる文脈のエピソードでは密度分布領域が異なることも判明した。この興奮と抑制のシナプス多様性をエントロピー解析してCA1全体に展開すると、情報量は最大5600000bitに及んだ。
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