研究実績の概要 |
通常の雌マウスにpregnant mare serum gonadotropin (PMSG: FSHの代替ホルモン)を腹腔内に投与し、さらにその44~48時間後にhuman chorionic gonadotropin (hCG: LHの代替ホルモン)を腹腔内投与すると15時間後に排卵を誘発できる。エストロゲンを合成できないマウス(ArKOマウス)に排卵を誘導するためには、エストロゲン補充に加えて通常の5倍量のPMSGとhCGを投与することが必要である。しかし、60~70%の確立でしかArKOマウスに排卵を誘導できない。H26年度の研究によって、インスリンをhCGと同時に投与するとその排卵効率をほぼ100%に高めることができることを明らかにした。排卵誘導刺激によるCREB, AKT, p38MAPK,ERK1/2のタンパク質のリン酸化の亢進の程度や排卵関連遺伝子群(Amphiregulin, Betacelluli,Epiregulin, Prostaglandin-endoperoxide synthase 2, Hyaluronan synthase 2 及び Progesterone receptor)の発現量を指標にインスリンの排卵誘導補完の作用機序を解析した。その結果、ArKOマウスの卵巣は、hCGの排卵誘導刺激の卵胞内への伝達において協調性が欠けていることが明らかになった。そして、インスリンはその欠損している協調性を補正していることを示唆する結果を得た(論文印刷中)。本年度は排卵誘導の前半のPMSG刺激によって誘発される卵巣内のシグナル伝達に及ぼすエストロゲンの作用の結果を専門誌に公表できるようデータを蓄積する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は排卵誘導の前半部分であるPMSG刺激によって誘発される卵巣内のシグナル伝達に及ぼすエストロゲンの作用を中心にして研究を進める。卵巣内cAMP量を指標にして性腺刺激ホルモンに対する感受性を解析する。さらに、性腺刺激ホルモン放出ホルモン投与による血中性腺刺激ホルモン濃度の変動と、卵巣内cAMP量、性腺刺激ホルモンの卵巣内標的遺伝子群の発現変動との相関を明らかにする。また、AKT, CREB, 及びERK1/2タンパク質のリン酸化の亢進の程度を解析し、エストロゲンが欠乏した卵巣の性腺刺激ホルモンに対する反応性を解析する。 こうした解析結果を蓄積し、論文として公表する。[肥満と排卵の相関関係の解析] 野生型およびArKOマウスを14日間、高脂肪・高糖成分の特殊餌で飼育する。それらマウスの排卵誘導に対する反応を解析する。また、高脂肪食を摂取したマウスの卵巣の排卵誘導刺激に対する反応をシグナル伝達に関わるタンパク質のリン酸化状態の変動や卵巣内cAMP量の変動を指標にして解析し、肥満と卵巣の性腺刺激ホルモンに対する反応の関係を明らかにする。
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