熱放散促進と熱産生抑制とにより能動的に体温が低いレベルに調節される生理反応であるアナパイレキシア(anapyrexia)は能動的体温上昇である発熱とは正反対の現象である。低酸素環境はアナパイレキシアをおこす典型的な刺激であることが知られている。本研究では低酸素によるアナパイレキシアに関わる神経機構を同定することを目的とし、ウレタン・クロラロース麻酔下で筋弛緩剤により非動化したラットにおいて人工呼吸器の給気を通常大気から一時的に10%酸素90%窒素の混合ガスにすることにより低酸素刺激を行い、誘起される低体温反応の成因として重要な熱放散促進機構における延髄機構の解明を試みた。 延髄の傍錐体路領域にGABAを微量注入すると熱放散の指標である尾部皮膚温度が上昇し、深部体温の代表である結腸温度が低下した。GABA受容体拮抗薬であるbicucullineをこの部位に両側性に投与すると、それ自体では小さな熱産生と頻脈反応を誘起したが、皮膚温度および深部体温への影響はなかった。しかしながら、低酸素刺激や視床下部の外側視索前野へのグルタミン酸の注入によって誘起される熱放散の増加と深部体温の低下反応は、この部位にbicuculline注入しておくと阻止された。したがって、この部位におけるGABA放出による皮膚交感神経プレモーターニューロンの抑制が低酸素刺激による低体温反応において重要であることが示唆された。
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