低酸素状態の少なくとも一部は頸動脈化学受容器によって検出され、その情報はノルアドレナリンによって視床下部正中視索前野に伝達され、この部位でアルファ1受容体刺激と一酸化窒素の合成・放出を引き起こして体温低下に関わっていた。熱放散の増大に関してはこの部位から外側視索前野へのグルタミン酸作動性投射を介して、延髄の吻側淡蒼縫線核と周囲の傍錐体路領域へのGABA放出によって皮膚血管を支配するプレモーター領域を抑制することを明らかにした。 ブドウ糖の利用阻害によるアナパイレキシアのモデルとして2デオキシブドウ糖(2DG)を静脈内投与すると下位脳幹に作用し、最終的には延髄の皮膚血管プレモーター領域でGABA放出により熱放散促進をおこしていた。 脂肪酸の利用阻害モデルとしてメルカプトアセテート(MA)静脈内投与による低体温反応は腹部迷走神経中の感覚神経を介し、前脳が関与することを明らかとしたが、脳機構の詳細は未解明となった。 2016年度ではケトン体の体温調節系の影響を調べた。ケトン体は脂肪酸より変換され生体にとってエネルギー源である一方で、飢餓状態の時に血液中に増える物質であるのでケトン体はエネルギー不足の指標であるという見解も存在する。どちらの見解においても作用部位は脳であると想定されている。そこで、ケトン体を脳室内およびエネルギー代謝に関わりの深い脳実質内に投与してエネルギー代謝に及ぼす影響を調べた。代表的なケトン体であるβヒドロキシ酢酸 (BHB)を脳室内に1-10マイクロモル投与したところ用量依存性に熱産生反応がおきたが同量の食塩によっても類似の反応がおき、投与液の高浸透圧による反応であることが推測された。視床下部の背内側野に0.15MのBHBを投与しても熱産生反応がおきたが、これも投与液の体積に依存したアーティファクトでありBHB特異的な反応ではないことが明らかとなった。
|