研究課題/領域番号 |
25460333
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
柿沼 由彦 日本医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40233944)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | アセチルコリン / 心筋 / エネルギー代謝 |
研究概要 |
我々はα-MHCをプロモーターとして心室筋特異的にcholine cetyltransferase (ChAT)を発現させるトランスジェニックマウスを作製した。このマウスでは、ChATの発現が、従来の野生型マウスと比較して、脳よりもはるかに多く発現していた。GFPによる選択マーカーを用いても、他臓器ではなく、心臓においてのみChATが発現しているのを確認後、実際に心臓内、特に心室レベルでのACh濃度を測定したところ、野生型マウスの心臓よりも、数十倍高い濃度であり、心室筋においてAChが産生されていることが明らかとなった。 この心臓におけるGlut-4の蛋白発現を確認したところ、野生型と比べ著明にその発現レベルが亢進し、また心室筋の心筋細胞におけるGlut-4シグナルが明らかに多く認められた。また心臓内グルコース含量も同様に亢進しており、本マウスはエネルギー基質として糖を積極的に利用していることが明らかとなった。 またこの心臓由来心室筋を初代培養系として用いて、低酸素暴露実験を行いその後通常酸素下に戻しても、野生型とくらべて、明らかに細胞代謝は亢進しなかった。このことからも、本マウスの心筋はより通常酸素存在下において、酸素消費が低い、すなわち代謝が遅い心筋細胞であることが明らかとなった。 さらに、本マウス心臓における組織重量当たりのATP含量は、野生型と比べて少ない傾向にあった。しかし、本トランスジェニックマウスは、野生型マウスと比較して、血行動態学的には、心拍数、収縮期・拡張期血圧ともに、有意差は認めなかった。 以上のことは、エネルギー代謝学的に少ないATPでも通常の機能を発揮出来得るという点においても、エネルギー基質要求度が、より酸素を使わない経路を用いていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心室筋特異的にChATを発現させたマウスを作製したところ、当初の計画通りに、心室筋においてのみACh産生能の高いマウスが幸運にも問題なく得られたところが、本研究の計画が順調に進行している大きな要因と考えられる。 さらに、本研究遂行にあたってのシュミレーションを充分に行ったため、想定外の問題はほとんど回避できていたところも大きかった。 以上より、本マウスを用いて研究の中心的論理を一つ一つ展開し、慎重に結果やデータを確認しており、そのためこれまでのすでに我々が報告してきた先行研究による事象および結果に沿った形で、研究がおこなわれており、それらと矛盾しないものであったところも、上記のとおり判断した理由である。 さらに、心臓から中枢へと、本マウスの影響の範囲が展開され、思わぬ方向性が見えてきたことも順調に進展と判断した根拠である。これは、けっしてマイナスの意味での思わぬ方向というよりも、むしろ心-脳連関をさらに深く理解するための新テーマの展開という意味を示唆する。以上より、本研究の進展については順調と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
一方で、心臓特異的ChAT発現亢進マウスを作製したのではあるが、心臓のみに当初フォーカスをあてて解析してきたが、個体レベルで認められた表現型は、心臓臓器のみでは説明ができないような点がいくつか確認された。 現在そのメカニズムとして中枢への影響の結果として想定するとともに、中枢のどの部位に対して特に影響を及ぼしているのか、そのような方面に対してアプローチを変更しつつある所である。 当初予定していた循環器系のみの評価から、中枢およびその責任部位の同定についても解明すべきと考え、しかもそれを明らかにできれば、これまでの常識に対してチャレンジしうる結果が得られるものと、期待される。中枢における機能評価といった側面の研究にも展開する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者が平成25年度において、所属機関が変更となり、その異動に関連して数か月間本研究を遂行するにあたって困難な状況にあった。職位における立場も変わったこともあり、それに適応するにあたり少々時間を要したことが、次年度使用額が若干生じた理由である。 異動先において早期に研究環境を整え、新年度において昨年度の残を含めて新年度予定額をおおかた使うこととする。
|