研究課題
テトラヒドロビオプテリ(BH4)は、芳香族アミノ酸水酸化酵素の補酵素として神経伝達物質の生合成に必須の分子であるとともに、一酸化窒素(NO)合成酵素のコファクターとして血管機能の維持に関与している。本研究の目的は遺伝子改変マウスおよび培養細胞を用いて、BH4と神経発達および血管病変とのかかわりを明らかにすることである。本年度の研究実績は以下のとおりである。(1)芳香族アミノ酸の水酸化反応にともなって生じるキノノイド型ジヒドロビオプテリン(qBH2)は、ジヒドロプテリジン還元酵素(DHPR)によってBH4に再還元される。DHPR遺伝子ノックアウトマウス(Qdpr-/-)の肝臓・脳ではBH4は野生型マウス(+/+)と比較して軽度に減少していたのに対し、BH2が著明に増加していた。Qdpr-/-マウスの血管ではBH2とともにBH4が増加していたが、胸部大動脈リング標本のアセチルコリンに対する弛緩反応は野生型と有意差がなかった。また血漿中のNO2+NO3含量は、野生型に比べ、有意に増加していた。血管には高BH2負荷に対してBH2/BH4比の変化を緩和し、NO産生と血管機能を維持する機構があると考えられた。(2)BH4生合成の第三段階を触媒するセピアプテリン還元酵素(SPR)遺伝子ノックアウトマウスの組織では、BH4,BH2が高度に減少していた。このマウスは循環器系に異常を生じることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
Dhpr-/-およびSpr-/-マウスの導入によって必要な遺伝子型の個体が得られるようになり、明確な生化学的・生理学的所見が多く得られた。Dhpr-/-については、薬物投与下の血管弛緩反応について、解析が進行中である。Spr-/-マウスの循環器系の異常については、そのメカニズムの解析が進んでいる。一方BH4と神経発達については、Spr-/-マウスおよび野生型マウスにBH4を投与し、発現に変化の見られる遺伝子をDNA Arrayでスクリーニングしたが、解析は進んでいない。
(1)Dhpr-/-マウスに薬物を投与して血管のBH2/BH4比を変化させ、この時の血管弛緩反応の変化とラジカル産生を測定する。(2)Spr-/-マウスの循環器系の異常とそのメカニズムについてとりまとめる。(3)発達期の幼若マウスに投与するBH4、またはその阻害薬の量と時期を検討する。(4)Spr-/-を含むBH4欠損マウスのグルタミン酸およびGABAニューロンの解析を行う。
必要に応じて交配用マウスの導入数、飼育に必要な飼料・チップの量が変動することによって残額が生じた。
マウスの飼育は計画的におこなっており、今年度は残額を生じない予定である。
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