研究課題
メチオニン・アデノシル転移酵素II(MATII)は、触媒サブユニット(α)と機能不明な非触媒サブユニット(β)から構成され、S-アデノシルメチオニン(SAM)の生合成を触媒する。合成されたSAMはメチル基転移酵素(MT)の基質として利用され、そのメチル基はDNA中のシトシンやヒストンのリジン残基などへ転移され、クロマチンレベルでのエピジェネティクスを支配する。本研究の主題は、ヒストンやDNAのメチル化を包括的に低下させる方法を開拓し、細胞記憶を消去し、クロマチンと細胞の可塑性を高める技術を開拓することである。平成25年度に達成した、マウス肝癌細胞株(Hepa1)やES細胞へのsiRNAによる、一過性のMATIIαノックダウン細胞を用いて、平成26年度では、ヒストンやDNAのメチル化を検出した。しかし、当初予定していた細胞記憶の書き替え法にまでは、至っていない。その理由に、ゲノムの不安定化が示唆されたため、ヒストンのメチル化のうち、ヒストンH3K4ならびにK9のトリメチル化に注目して、セントロメア周縁部のリピート配列に存在する遺伝子の発現やエピゲノムの変動を調べている。さらに、MATIIβによるMATIIαの核移行と、それにともなったエピゲノム制御も少しずつ明らかになってきた。それらは、核移行に必要な因子群の同定や、MATIIαが核移行するために必要と示唆される翻訳後修飾の動態から、理解可能となった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に沿って、計画リスクや問題を解決しながら、予定通りに研究が遂行できている。まず、MATIIαのsiRNAが成功しているので、その標的配列を利用することができ、効率良く構築することができた。また、昨年度のMATIIαノックダウンによるタンパク質発現のプロファイリングを取りまとめているので、今回、新たに発見されたMATIIによるゲノムの安定化と、それに伴う包括的なエピゲノム制御の意義も見いだし易くなった。
今後は引き続き、細胞記憶の書き替え法の開発に取り組み、遺伝子発現プロファイリングのデータと付き合わせながら、MATIIによる包括的なエピゲノム制御機構を解明していきたい。
細胞のノックダウンまたはMATIIの過剰発現後に、薬剤処理を行う計画をしていました。その実験計画に沿って実行した結果、年度を越してしまうことがわかり、その試薬代を確保するために次年度への繰越を計上しました。
実験計画に基づいて、細胞のノックダウンまたはMATIIの過剰発現後における、薬剤処理とその影響を細胞の形態や生理活性、代謝情報、遺伝子発現、エピゲノム動態から解析をおこなう。これらも当初から予定していた諸費用を、繰り越しした費用から捻出する。
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Transplantation
巻: 99 ページ: 1349-1355
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生化学
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