研究課題
アポトーシスは不要な細胞を除去するために引き起こされるプログラム細胞死の一様式であり、細胞の分裂や分化・増殖と同様に生理的な細胞活動と捉えられている。また、アポトーシスの異常は、癌、自己免疫疾患、神経変性疾患など幅広い疾患と密接に関わっていることから、各々の疾患における病態を解明する上でアポトーシスの制御機構を解明することは極めて重要である。しかしながら、アポトーシス関連分子を標的とした疾患治療薬の開発は未だ途上の段階にあり、今後さらにアポトーシス誘導分子の詳細な活性化調節機構を解明して行くことが必要とされている。このような背景のもと、申請者はFasやTNFが誘導するアポトーシスの感受性を調節するキナーゼを網羅的に解析し、8種類のキナーゼがアポトーシスの誘導を調節していることを突き止めた。これらのキナーゼがアポトーシスを誘導するにはそのキナーゼ活性が必要なことから、それぞれのキナーゼは特異的な基質をリン酸化することでアポトーシスを調節していることが考えられた。そこで、申請者はアポトーシス誘導におけるリン酸化シグナルの役割を明らかにするために本研究を開始した。H25年度においては、それぞれのキナーゼのリン酸化基質の探索を行い、その候補を同定するとともに機能的な役割の解析を始めた。H26年度においては、リン酸化基質が同定されていなかったキナーゼの基質探索を引き続き行い、新たな基質候補を得ることができた。一方で、H25年度から機能解析を始めた分子に関しては、解析したキナーゼ群がアポトーシスの誘導に必須な複合体形成を調節していることを明らかにしてきた。H26年度においては各々のキナーゼのノックアウト細胞を作製し、複合体形成やアポトーシス誘導における必要性を検討するとともに、それぞれのキナーゼによるより詳細な調節機構を明らかにしてきた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の目標は、スクリーニングで同定されたキナーゼのリン酸化基質の同定とその機能解析であった。リン酸化基質の同定においては、実験上の困難もあり今後引き続き解析を行う必要があるが、すでに同定されている基質の解析は順調に進展している。特に、アポトーシス誘導時に生じる複合体の形成やその複合体の構成因子のユビキチン化がリン酸化シグナルによって制御されていることが明らかになってきた。ことから、アポトーシスの誘導におけるリン酸化シグナルの役割の解析が進展したものと考えている。
解析中のキナーゼには、アポトーシス誘導に必要であることが示唆されているものの、そのリン酸化基質や機能が未だに明らかになっていないものがある。今年度においてはこれらの基質探索と機能解析を引き続き進めて行く。一方で、機能解析が進んでいるキナーゼに関しては、より詳細な分子機構を解析して行く。特に、リン酸化基質のリン酸化部位なども明らかにし、各種細胞間での比較検討も行うことで、申請者が見出した知見の普遍性を示したいと考えている。本研究の総括として、これまでに得られた機構解析の結果をもとに、リン酸化シグナルによるアポトーシス誘導の制御機構を論文として発表し、それを創薬に向けた分子基盤として今後の解析に繋げて行きたい。
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J. Biol. Chem
巻: 290 ページ: 56-64
doi: 10.1074/jbc.M114