上皮組織は多細胞生物を構成する器官の基盤的構造であり、その形状やサイズの適切な制御は機能的な器官の構築に極めて重要である。ここ数年の研究から、器官サイズ制御シグナルHippo伝達系が上皮組織の構造制御と密接に関連することが明らかとなってきたが、上皮組織の3次元構築を規定する分子メカニズムの詳細は未解明な点が多い。我々はこれまでにHippoシグナルの下流標的因子YAPのメダカ変異体hirameを単離し、このhirame変異体が神経管や血管等の上皮組織の構築と維持の不全という特徴的な表現型を呈することを見出した。Hippoシグナル伝達系は、隣接細胞間の接触情報に基づいて細胞増殖と細胞死の双方を制御することにより、組織や器官の形状やサイズを決定する新しいシグナル経路として近年注目を浴びている。しかしhirame変異体の特徴的な表現型は、組織を構築する個々の細胞の増殖や細胞死の観点だけからでは説明をつけることは難しい。そこで新たに細胞張力の観点からhirame変異体の表現型を精査した。具体的には、ピペット吸引法やレーザー切断法など組織・個体レベルでの物理的張力を計測する技術を駆使し、YAPが組織張力の原動力となるアクトミオシンの活性制御を司ることを突き止めた。単一細胞レベルでのタイムラプス解析から、hirame変異体では組織張力の異常により細胞積層が正常に進行せず、結果として神経管などの上皮組織が扁平化したと考えられた。また、YAPはアクトミオシンの活性制御を介してフィブロネクチンの重合化を引き起こし、眼のレンズと網膜の正常な組織配置に関与することも明らかとなった。さらに、これらメダカで見出されたYAPの新機能はヒトにおいても保存されていることがヒト培養細胞の3次元培養法により示され、YAPがRhoGTPase活性化分子の発現を介してアクトミオシン活性を制御していることが判明した。
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