研究課題/領域番号 |
25460365
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
伊集院 壮 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00361626)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 筋小胞体 / PIP3 / SKIP / インスリン抵抗性 / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
骨格筋は非常に小胞体を発達させ、カルシウム動態や脂質輸送を非常に活発に行っている。骨格筋の小胞体のことを筋小胞体と呼ぶが、この構造はT管と呼ばれる筋肉細胞に特徴的な膜の陥入構造と非常に近接しており、この間でカルシウム流入・脂質輸送・インスリン依存的な糖取り込みが行われている。この部分でのホスホイノシチド代謝はこれらの現象の制御に必須である。ホスホイノシチドホスファターゼSKIPは、骨格筋におけるインスリン作用の負の制御因子であることをこれまで明らかにしてきたが、本年度はSKIPが小胞体上の分子シャペロンGRP78と特異的に結合していること、この小胞体内腔の外にあるGRP78がSKIPの細胞内局在を決定していることを明らかにした。GRP78は小胞体ストレスの重要な制御因子であるが、小胞体ストレス依存的なGRP78とSKIPの発現上昇が骨格筋におけるインスリン抵抗性を 惹起する機構である可能性を提唱したものである。これは、インスリン作用の制御にGRP78が直接的に関わっていること、しかも小胞体内腔にないGRP78による機能であること、さらに小胞体ストレスが骨格筋におけるインスリン抵抗性の上昇に貢献していることを証明する非常に新しい結果である。また、これはすべて筋小胞体という非常に特徴的な細胞膜コンパートメントで起こっている現象であることを明らかにした。本年度は、この膜構造におけるホスホイノシチドの代謝機構を解析し、ホスホイノシチド特にPI(4)PとPI(4,5)P2における骨格筋機能制御を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨格筋におけるホスホイノシチドを介した、小胞体ストレス依存的なインスリン抵抗性の亢進機構の存在を明らかにした。骨格筋の糖代謝異常には、他の組織とは異なる特異的な機能が存在することを示唆している内容であり、今後の2型糖尿病の新しい治療標的となる可能性を提唱した。また、ホスホイノシチドホスファターゼSKIPの細胞内動態を制御する仕組みを明らかにしたことから実際の創薬への応用に具体的に踏み込んだ内容となっている。従って、本研究は本来の研究計画と少し相違はあるものの、研究の進展は当初の目的通りである、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究の結果より、骨格筋でのTriad構造におけるホスホイノシチド代謝、なかでもPI(4,5)P2およびPI(4)Pがカルシウム取り込みに重要であることが明らかとなった。これはホスホイノシチドホスファターゼSKIPおよびSAC1を介していた。これらの酵素はPIP3の脱リン酸化を介してインスリン依存的な糖取り込みにも関与していることから、この膜構造でのホスホイノシチド代謝を詳細に検討することが必要である。すでにこの部分は小胞体と細胞膜が近接した部分であることが分かっているが、今後はこの膜コンパートメントにおけるホスホイノシチドとその代謝酵素の動態を検討する。また、この非常に特徴的な膜構造の形成自体にホスホシノシチドが関与しているのかどうか検討を行う。 ER-PM contactと呼ばれるこの構造は多くの種類の細胞に広く存在し、カルシウム調節や脂質輸送など細胞の恒常性維持を行うコンパートメントである。特に転移性の高いがん細胞や、アルツハイマー病などの神経変性疾患では非常に発達している。これらの病態モデル由来の細胞を用いて、この膜構造におけるホスホイノシチドおよびホスホイノシチド代謝酵素の変化を検討する。また、糖尿病モデルマウス由来の骨格筋細胞で、この部分の組織染色でホスホイノシチドの局在の検討を行い、著しく変化する脂質の同定を行う。この脂質が、糖尿病・がん・神経疾患などの新しい病態マーカーとなる可能性があり、その同定を行い、局所的な定量法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、本研究の遂行とあわせて、がんの病型におけるホスホイノシチド、特にPI(4)Pの新たな機能の研究を行ってきた。これは基盤研究(S)(課題名 ホスホイノシタイドによる細胞ダイナミズムの制御 研究代表者 竹縄 忠臣)の研究の一環である。その結果、ゴルジ体のPI(4)Pががん細胞の浸潤転移をコントロールすることを明らかにした(徳田ら、Cancer Res. 2014)。私も共著者として、この研究に参画した。この結果は、上述の通り、本課題の骨格筋の機能維持にPI(4)Pが関与していることとして反映されている。その結果、本研究課題の研究費使用の抑制につながり、次年度使用額が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、培養細胞を使用した実験に加えて、マウス由来の骨格筋細胞を使用した細胞生物学実験を予定している。これには、骨格筋の衛星細胞の単離が含まれている。細胞を組織から分離する試薬の購入およびその細胞培養に係る費用に、この次年度使用額を充てる予定である。また、研究成果の学術論文での発表にあたり、論文の英文校正料および投稿料、さらに学会発表のプレゼンテーションに必要なパソコンの購入代金や資料の印刷料に充てることを予定している。
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