2型糖尿病は高血糖を伴い、心筋梗塞などのリスクを高める生活習慣病である。その原因は末梢組織におけるインスリン抵抗性の増大によるものである。脂肪組織でのインスリン抵抗性の惹起は、血中の過剰な脂肪酸など小胞体ストレスが増えることに因って起こるインスリンシグナルおよび糖代謝の抑制が原因であることが広く知られている。しかしながら、骨格筋は全身の大部分の糖代謝を担うにも関わらず、インスリン抵抗性が誘導されるメカニズムは知られていなかった。本研究では、ホスホイノシチドホスファターゼSKIPが骨格筋における小胞体ストレスとインスリン抵抗性をつなぐ新しい分子であることを明らかにした。SKIPは小胞体内腔の分子シャペロンGRP78と直接結合することによって小胞体に局在するPIP3脱リン酸化酵素である。インスリン刺激によってSKIP-GRP78複合体は細胞膜に移行するが、そこでSKIPはGRP78から解離し、活性化型PAK1を介してAkt2やPDK1と複合体を形成することによって、インスリン依存的なPI3キナーゼシグナルを不活性化することを明らかにした(Ijuin et al. 2015 Biochim. Biophys. Acta.)。また、SKIPの発現は小胞体ストレス依存的に亢進していること、過剰な脂肪酸や高脂肪食によってマウス骨格筋においてもSKIPの発現が上昇していることを明らかにした(Ijuin et al. 2016 Mol. Cell. Biol.)。これはSKIPが骨格筋のインスリン抵抗性を誘導する分子であることを示唆している。すでのSKIPノックアウトマウスではインスリン感受性が亢進していることが示されていることから、SKIPは新たな2型糖尿病の分子標的となることが期待される。
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