研究課題
12(S)ーヒドロキシトリエン酸(12-HHT)は、アラキドン酸のシクロオキシゲナーゼ代謝物であるプロスタグランジンH2から生合成される炭素数17の不飽和脂肪酸である。皮膚パンチを行った後の創傷治癒を観察する実験を行ったところ、野性型マウスに比べてBLT2遺伝子欠損マウスでは皮膚創傷治癒が遅延した。皮膚切片を組織学的に検討したところ、ケラチノサイトの遊走によってもたらされる再上皮化がBLT2欠損マウスで減弱していた。さらに詳細な分子機序を明らかにする目的で、初代培養ケラチノサイトを用いたin vitroのスクラッチアッセイを行った。その結果、in vitroにおいても12-HHT及びBLT2依存的に創傷治癒が促進した。さらにRT-PCR解析、抗TNFα中和抗体を用いたスクラッチアッセイ、ザイモグラフィーアッセイなどにより、ケラチノサイトがTNFαを産生し、TNFαがタンパク質分解酵素MMP9の発現上昇を促すことで、細胞遊走を促進することがわかった。次に創傷治癒におけるBLT2アゴニストの治療的効果を検討したところ、マウスの創傷部位にBLT2の合成アゴニストを塗布することによって、皮膚の創傷治癒が促進された。また、臨床医学の現場では糖尿病性の皮膚潰瘍が重要な問題となっている。そこで糖尿病のモデルマウスであるdb/dbマウスを用いて、糖尿病性皮膚潰瘍におけるBLT2アゴニストの治療的効果を検討したところ、db/dbマウスにおいてもBLT2アゴニストは創傷治癒を促進した。皮膚切片を作製し、組織学的に検討したところ、BLT2アゴニストがケラチノサイトの遊走を促進していることがわかった。以上の結果は、12-HHT/BLT2シグナルがケラチノサイトの遊走を促進することで皮膚創傷治癒を促進すること、また、BLT2アゴニストが新しい皮膚潰瘍の治療薬になりうることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
12-HHTの皮膚における役割を詳細に明らかにすることができ、また、創薬標的となりうることを示せたため。
12-HHT/BLT2シグナルはバリア機能においても重要なため、そのシグナル伝達機構を明らかにしたいと考えている。
研究費を効率的に使用し残金が出たため。
消耗品の購入に使用する予定。
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