研究課題/領域番号 |
25460376
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
石垣 靖人 金沢医科大学, 総合医学研究所, 教授 (20232275)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | RBM8A(Y14) / 中心体 / M期 / アポトーシス / リン酸化 |
研究実績の概要 |
ヒト細胞におけるRBM8A(Y14)の役割を分子レベルで明らかにすることを目的として研究を行ってきた。25年度には同分子や結合因子のノックダウンが細胞周期の中でもM期における停止を誘発すること、さらに中心体へ局在することを報告してきた。さらに、26年度は中心対局在へのメカニズム解明を目指して、RBM8A分子のリン酸化修飾に着目して解析を行った。方法としては、タンパク質がリン酸化を受けると泳動度が極端に遅くなるPhosTagゲルを利用してリン酸化の検出を行った。従来のアイソトープの取り込みを利用した解析手法と比較しても、簡便であり、なおかつ修飾を受けたタンパク質の割合をウエスタンブロットで検出できる点でも優れた手法であった。その結果、細胞内においてはRBM8A分子の大部分がリン酸化修飾を受けていること、リン酸化部位は166および168番目のセリンであること、166のリン酸化には168のリン酸化が必要であること等が明らかになった。さらに、試験管内リン酸化系を構築し、結合因子のMagohがリン酸化に阻害的に働くことを明らかにしてきた。以上の実験結果は、RBM8Aはタンパク質として合成された直後にリン酸化修飾を受け、その後Magohと複合体を形成して核内へ移行することを示唆すると考えられる。さらに、リン酸化を受けるセリンをアラニンに変えた変異体を細胞内に発現させて局在を観察したところ、中心体への局在が観察されたことから、リン酸化は中心体局在の必須なシグナルとはならない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、25年度にノックダウンによる細胞病態の解析を行い、26年度にリン酸化修飾の解析を行う予定としてきたが、概ね実行できたと考えている。両成果ともそれぞれ査読付き国際誌に発表した。しかし、2つの課題が解けずに残っている。ひとつはリン酸化修飾の生物学的な意義であり、もうひとつは中心体局在のメカニズムである。 RBM8A分子内の2カ所がリン酸化されることは、別のグループの実験結果と合わせても確実なことと思われる。しかし、リン酸化部位をアラニンに変えた変異体を発現させると、多少アポトーシスを誘導する効果は観察されたが、中心体への局在は正常なクローンと同様に観察された。従って当初の予想に反して、リン酸化は中心体への局在シグナルとして機能していないと考えられる。そこで、RBM8Aをリン酸化するキナーゼの検索を行うこととした。27年度の研究計画を前倒しして、siRNAライブラリーによるキナーゼのスクリーニングを行った。トランスフェクション後、細胞のライセートを回収してPhosTagゲルによる解析を行ったところ、リン酸化が阻害されてバンドがシフトするsiRNAはひとつも発見できなかった。複数のキナーゼがお互いに補い合いながらリン酸化を行っている可能性が考えられる。 中心体局在については、免疫沈降法により共沈殿してきたタンパク質の質量分析による同定を試みたが、確信のもてる結果は得られなかった。そこで、実験計画の記載に従って、免疫染色の一手法であるProximity ligation in situ法による解析を行った。その結果、中心体局在因子のひとつであるPLKファミリー分子との共局在を検出することができた。ここから、中心体局在への分子メカニズムを探っていけるかもしれないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
キナーゼの検索については頓挫してしまったが、複数のキナーゼによってリン酸化されていると考えれば無理のない結果と考えられる。しかし、試験管内のリン酸化アッセイにはSRPK1が使われており、複数の研究室でRBM8Aをリン酸化しうることが示されている。キナーゼの性質から考えてもSRPK1は細胞内でRBM8Aのリン酸化を担う可能性は高いと考えられる。しかし、SRPK1単独のノックダウンではリン酸化を抑制することはできなかった。実はSRPK1には配列が高度に保存された2および3が報告されており、これらが相補し合いながらRBM8Aを高効率にリン酸化している可能性が考えられる。しかし、ライブラリーの検索時には2も3も効果は観察されなかった。そこで、SRPK1から3を複数同時に細胞内でノックダウンしてRBM8Aのリン酸化への効果を解析する予定である。 中心体への局在のメカニズムは、現在の時点では不明なままである。視点を変えて、RBM8AとMagohが含まれるエクソンジャンクション複合体(EJC)全体が中心体に局在する可能性を検討してみた。予備的な実験の結果はEJCの他の構成因子も中心体へ局在しうることが、複数の実験系から確認された。各構成因子のノックダウンが、別の構成因子の局在に影響を与えるのかどうかを検討すれば、複合体が局在するのか、それとも各因子が個別に局在するのかを明らかにできる。しかし、EJC因子のノックダウンは、我々が報告したようにアポトーシスを誘導してしまうためにクリアな実験結果を得ることが困難である。幸い、EJC因子のなかの一つがノックダウンによって細胞致死を引き起こさないことが知られているので、この因子についてノックダウンによる発現抑制およびゲノム編集による遺伝子改変により他の因子に与える影響を検討していきたいと考えている。
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