研究課題/領域番号 |
25460378
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
谷口 隆信 旭川医科大学, 医学部, 教授 (60217130)
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研究分担者 |
矢澤 隆志 旭川医科大学, 医学部, 講師 (00334813)
竹内 昌之 旭川医科大学, 医学部, 助教 (40226999)
加藤 剛志 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (60194833)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / 上皮バリア / focal adhesion kinase / MAP kinase / ムスカリン受容体 / acetylcholine |
研究概要 |
申請の前後で米国のグループから論文が発表され、我々が計画していたfocal adhesion kinase (FAK)の腸上皮特異的なノックアウトのデータが含まれていた。ノックアウトにより、我々の予想していた通り、腸上皮バリア機能の低下がもたらされ、腸炎誘発薬剤に対する感受性の亢進が報告されていた。そこで、当初の目的のトランスジェニックマウスの作成に代えて、腸管の機能調節における重要な分子であるアセチルコリンに着目し、その受容体、特にムスカリン性受容体について、FAKとの関連を追究することとした。ムスカリン受容体にはM1からM5までの5種類のサブタイプがあり、いずれもGタンパク質に結合して機能していることが知られている。これまで、腸上皮においてはM3が主要なサブタイプであると信じられて来たが、今回我々が行った薬理学的結合実験の結果、マウス結腸の腸上皮においてはM1が80%、M3が20%を占めていた。Ussing chamberを用いた腸粘膜の分泌機能解析において、アセチルコリン刺激によるClイオン分泌はM3によって促進的に、M1によって抑制的に調節されていることが明らかとなった。 さらに、ムスカリン受容体からの細胞内情報伝達系において重要な分子であるMAPキナーゼについて検討した所、Erk1/2およびp38はいずれもM1の刺激に応じて活性化し、M3の下流ではないことが明らかとなった。最後に、trinitrobenzene sulfonic acid (TNBS)を注腸して得られる腸炎モデルで検討した所、ムスカリン受容体の密度は炎症によって低下し、この低下は主にM1の減少によるものであった。またアセチルコリン刺激によるMAPキナーゼの反応性も低下し、ムスカリン受容体の病態との関連が示唆された。これらの結果をJ Gastroenterol誌に論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞培養系における検討についても、腸上皮特異的なFAKノックアウトの結果を踏まえ、アセチルコリンによるバリア機能調節に目標を切替え、FAKとの関連を検討できる細胞系の構築を目指すこととした。探索の結果、ヒト大腸がん由来のT84細胞及びHT-29/B6細胞において、アセチルコリン刺激によるMAPキナーゼやFAKの活性化が観察された。この系を使い、単層の培養細胞を介する電気抵抗を計測することにより、腸上皮バリア機能を評価し、アセチルコリン/MAPキナーゼ/FAKらの役割を解析している。 トランスジェニックマウス作成については、概要で述べたように方針を変更し、腸上皮におけるアセチルコリン/MAPキナーゼ/FAKらの役割に関して検討することとし、研究成果をJ Gastroenterol誌に論文として発表した。 ヒト組織については、兵庫医科大学炎症性腸疾患センターに依頼して炎症性腸疾患患者の手術摘出組織のパラフィン包埋ブロックの供与を受けることとし、本学倫理規定に基づいて申請し承認を受けている(旭川医科大学倫理委員会承認番号1637)。免疫組織学的な手法でアセチルコリン受容体/MAPキナーゼ/FAKらの局在を観察し、正常部位と炎症部位での差について検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
概要にも述べたように、我々が計画していたFAKの腸上皮特異的なノックアウトの結果が公表されたため、これを踏まえて申請計画を前倒しし、腸上皮機能調節におけるアセチルコリン受容体/MAPキナーゼ/FAKらの役割を検討する方向で研究を継続している。これに従い、達成度で述べたように細胞培養系を構築し、腸上皮バリア機能を中心に検討を進めている。さらに、腫瘍壊死因子などのサイトカインを培養系に加えて炎症状態を作成することが出来るので、炎症の腸上皮機能に与える影響をアセチルコリン受容体/MAPキナーゼ/FAKらの挙動との関連で検討して行く予定である。ヒトの炎症性腸疾患患者の組織標本も確保できているので、培養細胞系における解析結果を見ながら、併せて検討を進めて行く予定である。
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