研究課題
C型肝炎ウイルス(HCV)はヒト幹細胞のみならずB細胞にも感染し、Bリンパ腫(non-Hodgkin's lymphoma)などの疾患を引き起こす。我々はHCVの被構造蛋白質の一つであるNS5Aが、肝細胞においてチロシンキナーゼSykと会合することや、B細胞においてはチロシンキナーゼFynと会合することをこれまで報告してきたが、その生化学的・ウイルス学的意義については解明されていなかった。本研究では2年間にチロシンキナーゼAblがNS5Aをリン酸化することを見出し、Ablの阻害薬として知られるイマチニブ(Ablの融合蛋白質Bcr-Ablを発現する白血病の分子標的治療薬)が、HCVの感染から子ウイルス産生に至るライフサイクルにおいて、ウイルス粒子(ビリオン)の形成過程を阻害することを突き止めた。3年目の最終年度はさらに詳細な知見を得た。RNA干渉法により、HCVのウイルス粒子産生はAblの発現量を低下させることで減少する(類似のキナーゼであるArgについてはRNA干渉法の影響はみられないが、これはArgの発現量がAblに比して著しく低いことも要因として除外できない)。また様々な点突然変異体を用いた実験から、AblはNS5Aの330番目のチロシン残基のみをリン酸化する。このチロシン残基をフェニアラニンに置換した組換えウイルスを用いた実験では、NS5Aのチロシンリン酸化とウイルス粒子形成が顕著に減弱するが、細胞内の脂肪滴近傍のウイルス局在には影響がなかった。更にAblの減少によるHCVへの影響として、HCV-RNAが構造蛋白質の一つであるコアタンパク質に結合する量の増加を新たに見出した。これらの研究成果はHCVのライフサイクルにおける新たな調節因子を見出すものであり、その分子メカニズムの解明に向けた新たな研究につながると考えられる。これらの研究成果をまとめて論文(Yamauchi S., et al. J. Biol. Chem.)と学会(日本生化学会北陸支部会シンポジウム、BMB2015)にて発表した。
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J. Biol. Chem.
巻: 290(36) ページ: 21857-21864
10.1074/jbc.M115.666859
http://biseibutu.labos.ac/