研究課題/領域番号 |
25460390
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北尾 洋之 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30368617)
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研究分担者 |
飯森 真人 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20546460)
森田 勝 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, その他 (30294937)
沖 英次 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70380392)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 染色体不安定性 / 抗癌剤 / FANCJ / FdUrd |
研究実績の概要 |
染色体不安定性は発癌や癌の進展の要因であるが、DNA損傷応答や修復機構の異常が原因であることが多い。染色体不安定性症候群ファンコニ貧血の原因遺伝子の1つFANCJは、その欠損により特徴的な染色体不安定性が引き起こされることやBRCA1, MLH1, BLMなどの重要な癌抑制遺伝子と直接会合し機能することが報告されている。このことから、染色体不安定性に伴う発癌や癌の進展において、FANCJの機能異常が深く関与する可能性がある。申請者は大腸癌症例において、FANCJ発現亢進を認める症例があること、またその症例では5-FUを含む術後化学療法の治療成績が不良であることを報告してきた(Nakanishi et al. (2013) Ann Surg Oncol 19:3627-35)。申請者はこれまでに、ニワトリDT40細胞株を用いた遺伝学的手法により、染色体不安定性症候群ファンコニ貧血原因遺伝子FANCJの破壊株を樹立し、抗癌剤シスプラチンや5-FU代謝物に対する細胞応答や感受性について解析を進め、昨年成果報告書においてこのFANCJ破壊株は、5-FU代謝物FdUrdに対してもわずかに感受性を示すこと、その感受性の相補にはFANCJのDNAヘリカーゼ活性、ミスマッチ修復因子MLH1との結合、DNA複製関連因子TopBP1との結合が必要であることを報告した。昨年度は、このことがヒトがん細胞株においても同様の表現型が見られるかについて検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の段階で、ニワトリDT40細胞を用いたFANCJ遺伝子破壊株および野生型や変異型FANCJ相補細胞株の樹立、これらの細胞を用いた表現型の比較解析が進められたことにより、目標が明確になったことが順調に研究を進められた要因と考えられる。 また、FANCJの細胞内における分子機能についての報告が相次ぎ、知見が蓄積していること、5-FUやその代謝物、さらに昨年国内で上市された新規ヌクレオシド型抗腫瘍薬ロンサーフの薬効成分トリフルリジン(FTD)の作用機序に関する研究が進展し(Matsuoka et al. (2015) Mol Cancer Ther.14:1004-13)、これらの薬剤が細胞に及ぼす影響について申請者のグループでの実験結果や他のグループによる報告から細胞分子生物学的理解が可能となってきたことも、研究が順調に進められている要因と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、細胞株を用いた表現型解析の結果の要因について検討する。FANCJは複製進行阻害剤投与時の複製とクロマチン構造の維持との共役において重要な役割を果たす(Schwab et al. (2013) J Cell Biol 201, 33-48)。この機能のため、FANCJは複製進行阻害からの復帰を促進すると考えられる。5-FUやその代謝物、FTDの働きにより、細胞内のヌクレオチドプールのバランスが崩れ、複製進行阻害が引き起こされると想定されている。十分な量のFANCJタンパクが細胞内に存在しないと、その複製進行阻害からの復帰がうまくいかず、癌の5-FUやFTDによる増殖抑制効果が高まると予想される。申請者は、実際に臨床検体を用いた研究から、癌部においてFANCJが過剰に発現する大腸癌症例では5-FUを含む術後化学療法の治療効果が少ないことを報告している(Nakanishi et al. (2013) Ann Surg Oncol 19:3627-35)。FANCJの機能と薬剤耐性との関係、FANCJ結合因子の関与の可能性について検討していく。
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