研究開始当初の作業仮説に反して、分泌型ST2がマウス線維芽細胞NIH-3T3の増殖を促進する結果が得られたので、平成27年度はその機序を探るべく実験を進めた。 過去の我々のデータから3つの可能性が示唆された。すなわち(1)IL-33と分泌型ST2が結合することによって、IL-33と受容体型ST2Lの結合を阻害することになり、IL-33のシグナル伝達が抑制される。(この場合にはIL-33が増殖抑制に働いていると考えなくてはならないが、平成26年度に得られたデータがこれを支持している。)(2)分泌型ST2がリガンドとして働き、未知の受容体に結合して増殖促進シグナルを伝える。(3)分泌型ST2自体が細胞内に取り込まれ、増殖関連の遺伝子群の発現を直接あるいは間接的に誘導する。である。 本年度は受容体型ST2Lを大量に発現していることがわかってきた肺のILC2細胞を選別して取り出して実験を行った。IL-33の炎症増悪効果が分泌型ST2を加えることによって阻止されることがわかり、上記(1)の可能性を支持する新たなデータが得られた。一方NIH-3T3細胞では、細胞外から分泌型ST2を作用させて増殖促進を見た実験系で、培地中に比較的高濃度のST2が必要であることがわかった。さらにST2遺伝子産物ノックダウンとその後のリカバリーの実験系で、分泌型ST2を発現させた場合のリカバリーの効率が予想以上に高かったが、この要因として発現プラスミドによって細胞内で合成されたST2が分泌過程を介さずに直接細胞内で作用していることも考えられた。これらにより(3)の可能性も示唆された。 何れにしてもIL-33、分泌型ST2ともに線維芽細胞NIH-3T3の増殖に影響を与えることが明らかになったが、各々単独で増殖抑制効果、増殖促進効果をもたらすのか、相互作用が重要なのかは今後の課題として残っている。
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