研究課題
糖鎖はタンパク質の主要な翻訳後修飾の一つであり、様々なタンパク質の機能を制御している。本研究では、3年間で心機能に重要な働きをしているカルシウム制御タンパク質や心調律と関連性のあるイオンチャネルに対して、N型糖鎖やO型糖鎖による修飾がそれらの機能に与える影響を明らかにし、糖鎖を標的とした心不全や不整脈の治療に対するin vivoを含めた基礎データを提供することを目的としてきた。まず、心筋小胞体タンパク質の一つであるホスホランバンがO-GlcNAc修飾され、そのリン酸化が抑制されることを突き止めた。また、筋小胞体のカルシウムセンサーであるSTIM-1もO-GlcNAc修飾され、その機能を抑制していることを見出し、現在はどのアミノ酸がO-GlcNAc修飾されるか検討中であると同時に、in vivo実験で心不全との関連性を調べている。O-GlcNAc転移酵素であるOGTの高発現マウス(Ogt-Tg)を用いたin vivoの実験も行い、野生型マウスでは大動脈縮窄術(TAC)4週間後に心不全状態になるが、Ogt-Tgでは心機能低下が野生型より有意に低下していた(心不全がひどくなった)。そのメカニズムとして、OGTの過剰発現により増加したO-GlcNAc修飾がGSK3βという分子に起こり、リン酸化が抑制されることにより活性化することが一因であることを見出した。それを検証するためにGSK3β阻害剤をTAC前後で投与しておくと、適度な心肥大が起こり、4週間後の心機能が改善していた。このことより、GSK3βのO-GlcNAc修飾がNFATという心肥大を起こす転写因子を活性化し、心筋壁の菲薄化を防ぎ、圧負荷による心不全を改善していることをin vivoで証明することができた。
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