研究課題/領域番号 |
25460407
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
平井 幸彦 日本医科大学, 医学部, 講師 (10089617)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | AAVベクター精製法 / AAV type 1 vector / AAV type 9 vector / 適正製造規範準拠 / down-stream processing |
研究概要 |
AAVベクターの作成・精製条件を検討している中で、現在最も遺伝子治療で用いられている1型、および第2世代のAAVベクターで、最も適応が期待されている9型AAVベクターを超遠心分離操作を含まづ、適正製造規範(GMP)にも適合する可能性のある方法を開発出来た。即ち、無血清培養液下のHEK293細胞へ3つのプラスミドをPolyethylenimine (PEI) を用いてトランスフェクションし、1型、および 9型AAVベクターをそれぞれ、細胞培養液中に分泌させる。この細胞培養液を限界排除分子量が750kDa のTangential flow filtration (TFF) を用いて低分子量のタンパク質を除去しながら濃縮・精製し、牛胎児血清や293細胞由来のタンパク質のコンタミの少ない粗AAVベクター分画を得る。この分画をPBSに溶解し、さらに1/3飽和硫安処理により不要な共存蛋白質を遠心除去後、1/2飽和硫安処理により、AAV vector を沈殿させる。沈渣を3.3mM MES-HEPES-NaOAc, 50mM NaCl および0.01% Pluronic F-68 含有緩衝液pH6.5 (以下MHN )に溶解させる。 type 1 AAVベクターは、Mustang SXT/QXT (陽イオン交換カラム+陰イオン交換カラム) に負荷し、不要な共存蛋白質を吸着したMustang SXT を外し、Mustang QXT に吸着したAAV vectorを50-250mM NaClのstepwise gradientの塩濃度 ( MHN pH8.0+0.01% Pluronic F-68 ) で溶出させた。限外濃縮したウイルス分画をSuperdex 200HRを用いてゲル濾過 (300mM NaCl含有MHN pH6.5 ) を行ってさらに精製した。 type 9 AAVベクターでは、HiTrap Q FF に負荷して、不要な共存蛋白質を吸着させ、その流出液として、ベクターを回収した。 SDS-PAGE後の蛋白質染色において、精製type 1および type 9AAVベクターは、ほぼVP1 ,VP2 ,VP3 の3本のバンドのみとなった。中空キャプシドの存在を電子顕微鏡像によって評価したところ、両者ともに約90%がウイルス・ゲノムを有していた ( DNAがcapsidに詰まっているもの)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在のAAVベクター精製法の主流は、超遠心分離法を使用した方法である。しかし、この方法は、大量生産するのに困難である。適正製造規範において、超遠心分離機操作の精通が必要であり、SOP への明記が困難であるなど問題点が多く存在する。今年度開発したtype 1 および type 9 AAVベクターの調整法は、超遠心分離操作を含まないdown-stream processing のため、これを改善すれば、適正製造規範への準拠が可能な簡易精製法となりうる。精製の対象としたtype 1 AAVベクターは欧州で遺伝子治療薬として実際に承認されており(グリベラ)、これからのtype 1 AAVベクターの利用が予見され、type 9 AAVベクターも神経疾患においてPhase 1 の段階で、今後の遺伝子治療に不可欠なベクターであると思われる。申請時では、アフィニティークロマトで、精製可能な第1世代の type 2 および type 5 AAVベクターのキャプシドを基に、他の血液亜型ベクターのキャプシドとのハイブリッド化することを計画したが、現時点では、ほぼ確立したtype 1 および type 9 AAVベクターの精製法を基に、これらのベクターのキャプシドに、他の血液亜型ベクターのキャプシドとのハイブリッド化する事としたい。即ち、1型 または 9型と他の亜型のパッケージングプラスミド(キャプシド供給)とを種々の比率で混合し、HEK293細胞にトリプルトランスフェクションすることにより、新たな次世代AAVベクターを作成する。新たに作成されたAAVベクターをそのマザーベクターのイオン交換樹脂での分離条件を参考に適正製造規範に準じた精製を行いたい。 実験方法の変更により、時間的なロスを生じたが、現時点で最も有用で、実際に使用されているtype 1 およびtype 9 AAVベクターに新たな機能を付加した次世代AAVベクターを作成することが可能であることは重要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1)ハイブリッドAAV ベクターの作成:type 1 および type 9 AAVベクターの精製法を基に、これらのベクターのキャプシドに、他の血液亜型ベクターのキャプシドとのハイブリッド化するため、申請したようにHauckら(Mol.Ther., 7. 419-425, 2003)、Rabinowitz ら( J. Viol., 78. 4421-4432, 2004)ら方法に従って作成する。 即ち、1型および 9型と他の亜型のパッケージングプラスミド(キャプシド供給)とを種々の比率で混合し、HEK293 細胞にトリプルトランスフェクションすることにより、新たな次世代AAVベクターを作成する。 2)精製条件と生化学的特性の検討: ① Type 1 AAVベクターは、Mustang SXT/QXT (陽イオン交換カラム+陰イオン交換カラム)、type 9 AAVベクターでは、HiTrap Q FFの結合効率、および流出塩濃度を検討し、精製するための必要な最小混合比率を決定する。 ② SDS-PAGE による精製ハイブリッドAAVベクターの純度、密度(通常のAAVベクターは1.38- 1.45 g/ml の分画に存在する)、電子顕微鏡的観察によるウイルス粒子の確認と空のウイルス粒子数の検討、③Real Time PCR法によるウイルス粒子濃度(vector genome /ml)を測定する。 3)各種培養細胞(HeLa、C2C12、HEK293、CHO、Cos 細胞など)へ遺伝子導入し、その導入効率、発現効率を検討して、作成した新しいウイルスの生物学的力価を求め、元になる単一なキャプシドを持つAAVベクターと比較検討することにより、ハイブリッドAAVベクターの感染域を検討する。 ◎ Mustang SXT/QXTまたは HiTrap Q FFでの精製が良好でない場合:多くの血液亜型AAVベクターにおいて、ラクダのIgGを用いた免疫学的アフィニティークロマトとして使用されているAVB-Sepharose(GE Health care) を用い、同様に結合性及び、流出条件を検討(Hum Gene Ther. 20:908-917,2009)し、上述の評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
heparinやムチンに対しへの結合能を有する第1世代の2型や5型AAVのキャプシドを基に、第2世代のキャプシドを種々に混合した新たなAAVベクターを作成し、そのアフィニティークロマトを用いて簡易精製する方法を申請した。しかし、第1世代のAAVベクターは、現在の遺伝子治療にあまり使用されていない。実際に欧州で遺伝子治療薬として承認さているtype 1 AAVベクター及びPhase 1 の段階で神経疾患に用いられているtype 9 AAVベクターを、超遠心分離操作を含まない適正製造規範への準拠が可能な簡易精製法として、開発できた。このため、一時的に申請した実験を休止し、発想を変えて、これらのベクターを基本にして、他の亜型ベクターのキャプシドをこれらに付加することにより、新しい機能を持ち、しかも類似した分離条件で精製可能な新しい第2世代のAAVベクターを作成・精製をめざす。 これまでの実験では、小規模のスケール(ウイルスゲノム 10 E+13 copies)で各々のウイルスを産生し、濃縮方法、硫安沈殿法における最適な硫安濃度とpH の検討を行ってきたが、大量に調整した場合(ウイルスゲノム 10 E+15 copies 程度)のAAVベクターの回収率、物理的性質、生化学的性質、各培養細胞への遺伝子導入効率、細胞選択性など検討を行い、type 1 AAVベクター及びtype 9 AAVベクターの超遠心分離操作を含まない適正製造規範(GMP)に準拠した簡易精製を確立し、down-stream processing化を目指す。確立されたこれらの精製法を基に、新しい第2世代のAAVベクター作成・精製する。条件検索以外のカラムククロマト処理は調整用HPLC を用いる。
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