研究課題/領域番号 |
25460407
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
平井 幸彦 日本医科大学, 医学部, 講師 (10089617)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | AAVベクター精製法 / AAV type 1 vector / AAV type 9 vector / 適正製造規範準拠 / down-steam processing |
研究実績の概要 |
スケールアップに伴て出現した、type 1 AAVベクターとの分離が困難であった 200 kDaの共存蛋白質を除去するため、沈渣を3 mM MgCl2 含有PBS に溶解させ、50 mM NaCl, 3 mM MgCl2 含有 20 mM Tris-HCl (pH 8.0) にて3時間、5 mM NaCl, 3 mM MgCl2 含有 20 mM Tris-HCl (pH 8.0)にて、20時間 透析した。さらにイオン強度をdH2O にて 1.0 mSV/cm に調整後、 Mustang SXT/QXT (陽イオン交換カラム+陰イオン交換カラム) に吸着させ、Mustang SXT を外し、Mustang QXT に吸着したAAV vectorを140 mM NaClの stepwise gradientの塩濃度 (3 mM MgCl2 含有 20 mM Tris-HCl (pH 8.0)) で溶出させた。溶出したウイルス分画を集め、Ultracel 30Kにより限外濃縮後、Superdex 200HRを用いてゲル濾過 ( MHN pH6.5 300mM NaCl+0.01% Pluronic F-68 ) を行って精製分画を得た。 SDS-PAGE上において、抗 AAV Monoclonal 抗体を用いたWestern Blot で、ほぼ VP1 ,VP2 ,VP3 の3本だけのバンドを示し、電子顕微鏡写真においては、ウイルス ( DNA がcapsid に詰まっているもの) は、90% 程度であった。収率は、おおむね15%であった。今回のスケールアップでは、4 x 10E+09 cells の HEK293 細胞を使用して、ウイルス力価 4.6 x 10E+13 vector genome/mlの標品を 1 ml 得た。本法をそのままさらにスケールアップすれば、ヒトの遺伝子治療に使用できる高純度な10E+15 vector genome/ml の標品が down-stream な操作で作成が可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、硫酸セルロファイン もしくは heparin-Sepharose へ結合能を有する2型AAVのキャプシドを種々に含有する第2世代AAVベクターを作成し、アフィニティークロマトで簡便な精製を行うことにより、超遠心分離操作を含まない適正製造規範(GMP)に適合した簡易精製が可能な AAVベクター作成の down-stream processing を確立することを立案した。しかし、AAVベクターの作成条件を検討している中で、遺伝子治療に実際に用いられている1型、および 第2世代のAAVベクターのうち最も使用が期待されている9型AAVベクターの超遠心分離操作を含まない適正製造規範(GMP)に適合可能な方法を見出し、その概要を昨年報告した。 本年は報告した精製方法をスケールアップした1型AAVベクター試料を用いて、ブラッシュアップし、大量調整用の精製方法を確立し、現在、投稿準備中である。本法をそのままさらにスケールアップすれば、ヒトの遺伝子治療に使用できる高純度な 10E+15 vector genome /ml の力価標品が down-stream な操作で作成が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
小規模のスケール(ウイルスゲノム 10E+13 copies)でtype 9 AAVベクターを産生し、濃縮方法、硫安沈殿法における最適な硫安濃度とpH の検討を行ない、この結果に基づき、大量に調整した場合(ウイルスゲノム 10 E+15 copies 程度)のAAVベクターの回収率、物理的性質、生化学的性質、各培養細胞への遺伝子導入効率、細胞選択性などを検討して、type 1 AAVベクターと同様にtype 9 AAVベクターの超遠心分離操作を含まない適正製造規範(GMP)に準拠したdown-stream processingの簡易精製を確立する。
無血清培養液下のHEK293細胞へ3つのプラスミドをPolyethylenimine (PEI) を用いてトランスフェクションし、9型AAVベクターを、細胞培養液中に分泌させる。この細胞培養液を限界排除分子量が750kDa のTangential flow filtration (TFF) を用いて低分子量のタンパク質を除去しながら濃縮・精製し、牛胎児血清やHEK293細胞由来のタンパク質のコンタミの少ない粗AAVベクター分画を得る。この分画をPBSに溶解し、さらに1/3飽和硫安処理により不要な共存蛋白質を遠心除去後、1/2飽和硫安処理により、AAV vector を沈殿させる。沈渣を3.3mM MES-HEPES-NaOAc, 50mM NaCl および0.01% Pluronic F-68 含有緩衝液pH6.5 (以下MHN )に溶解させる。9型AAVベクターにおいては、1型AAVベクターで用いた Mustang ST/QT (陽イオン交換カラム+陰イオン交換カラム)を用いて精製したものものより、HiTrap Q FF を用いて精製した分画の方が電子顕微鏡写真においては、ウイルス ( DNA がcapsid に詰まっているもの) の含有率(90%以上)が高かった。これらの結果に基づき、精製条件のブラッシュアップおよび大量調整のための条件を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1世代のtype 2 および type 5 AAVベクターは現在の遺伝子治療にはあまり使用され無くなりつつある。また、AAVベクターの作成条件を検討している中で、実際に欧州で遺伝子治療試薬として承認されている type 1 AAVベクター および phase 1 の段階で実際に神経疾患に用いられている第9型AAVベクターについて、申請者は超遠心分離操作の無い適正製造規範(GMP)に適合できる可能性のある方法を見出した。このため、先の発想を変えて、これらのベクターの適正製造規範(GMP)に適合できる作成・精製方法を確立し、其の後に、これらを用いて type 1およびtype 9 AAVのキャプシドを種々に混合した新しいAAVベクターの作成・精製を目指す事とした。
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次年度使用額の使用計画 |
type 9 AAVベクターを小規模のスケール(ウイルスゲノム 10E+13 copies)で産生し、濃縮方法、硫安沈殿法における最適な硫安濃度とpH の検討を行ない、この結果に基づき、大量に調整した場合(ウイルスゲノム 10 E+15 copies 程度)のAAVベクターの回収率、物理的性質、生化学的性質、各培養細胞への遺伝子導入効率、細胞選択性などを検討して、type 1 AAVベクターと同様にtype 9 AAVベクターの超遠心分離操作を含まない適正製造規範(GMP)に準拠したdown-stream processingの簡易精製を確立する。条件検討以外のクロマト操作は調製用HPLCを用いて行う。
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