研究概要 |
近年、各種癌組織において、癌細胞周囲のリンパ球やマクロファージの浸潤パターン、すなわち免疫微小環境が有用な予後予測マーカーとなりうることが報告されている。今年度は、いまだ有用な予後予測分子マーカーが存在しない上部尿路上皮癌(腎盂癌および尿管癌)における免疫微小環境の状態を解析し、新たな予後予測因子となりうるかどうか検討した。 腎尿管全摘術を施行された上部尿路上皮癌171症例を対象とした。パラフィンブロックから組織マイクロアレイを作成し、Tリンパ球表面マーカーであるCD3, CD4, CD8, CD45ROおよび腫瘍関連マクロファージのマーカーであるCD204に対する免疫組織化学染色を行った。免疫染色標本をバーチャルスライドスキャナを用いてデジタルデータとして取り込み、各マーカーの陽性細胞の密度を画像解析ソフトを用いて定量的に測定し、生存解析を行った。 いずれのマーカーに対しても良好な染色が得られ、全症例に対して解析を行うことが可能であった。各マーカーにつき、陽性細胞密度の中央値で2群に分け、生存解析を行った。その結果、CD3, CD4, CD8, CD45ROについては腎尿管全摘術後の転移再発、癌特異的死亡との間に有意な相関は認められなかった。一方、CD204陽性細胞の密度が高い症例群は、早期の術後転移再発および癌特異的死亡と有意に関連していた(いずれもlog-rank P <0.001)。癌の進行度やその他の臨床病理学的因子で調整を行った多変量解析でも、CD204陽性細胞の密度が高い症例群は早期の術後転移再発と有意に関連していた(P <0.05)。 以上の結果より、高密度のCD204陽性マクロファージの存在は上部尿路上皮癌の術後転移再発を予測する新規バイオマーカーとなりうることが示唆された。
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