研究課題
腫瘍細胞における転写制御機構の内、発現遺伝子のプロモーター領域におけるメチル化によるものとインスレーター機構による転写抑制が存在している。両者は腫瘍においても関連しているものと考えられるが、それらを検討している研究は少ない。特にインスレーターの代表的な因子としてCCCTC binding factor: CTCFに関しては発がん過程あるいはメチル化との関連性には言及されていない。本研究ではこの両者の相互関係について検討した。メチル化機構に関しては、変換酵素であるDNA methyltransferase: Dnmt-1と3bに関して、mRNAおよび蛋白レベルで発現を量的並びに局在を検討した。対象とした症例は乳腺症を主体とした増生症ならびに良性腫瘍である線維腺腫や乳管内乳頭腫、そして浸潤性乳管癌各種(乳頭腺管癌、充実性腺管癌および硬癌)である。CTCFの発現は乳腺症をはじめとして線維腺腫や乳管内乳頭腫など良性腫瘍では主に核内にその発現の局在を認める一方、浸潤性乳管癌の多くは核内発現が減弱し、細胞質内発現が認められた。この傾向はがん化に向けて漸次移行する結果を示した。さらに、種々の臨床病理学的因子とではT因子と年齢に有意な相関を示した。一方、Dnmt-1と3bの核内発現は良性腫瘍に比し、浸潤性乳管癌の多くで発現亢進が観察され、特にDnmt-3bとCTCFの核内発現が有意に相関していたメチル化の頻度に関しても核内発現の減弱ならびに細胞質内発現の亢進の両者に有意な相関性を認めた。これまでの検討からインスレーター機構とメチル化機構は互いに独立した機構ではなく、相互に関連性を持っており、癌化に向けて本来のインスレーター機構が果たしてきた役割がメチル化機構に取って代わることで、その局在を核内から細胞質内への移動することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
これまでの検討で、CTCFの役割の一端であるインスレーター機構は転写抑制を示すことは明らかにすることが達成できた。これらの結果は本来、転写部位である核内にてその局在が認められたことは本来の機能部位を支持するものでもある。しかし、増殖症とはいえ、非腫瘍性疾患である乳腺症をはじめとして、線維腺腫や乳頭腫において核内発現を示す一方、悪性腫瘍である浸潤性乳管癌では核内発現の減弱だけでなく、細胞質内発現の亢進を示していることは何らかの制御機構の変貌を来している結果を反映しているものと推察される。すなわち、本来の機能を発現する核内でその役割が何らかの影響によって失ってしまい、細胞質内への移動してしますのかもしれない。細胞質内がCTCFの貯留場であるか否かは不明ながら、本来のインスレーター機能は細胞質内では発揮できないものと思われる。では、何故に核内から細胞質内へと移動するのか?本研究の成果としてメチル化機構が大きく関わっていることが明らかになった。すなわち、非腫瘍、良性腫瘍ではメチル化の頻度は低いものの、悪性腫瘍になるに従いメチル化の頻度を増し、それらがCTCFに核内発現減弱、細胞質内発現亢進と相関を示すことに裏付けられている。メチル化とインスレーター機構は両者とも転写抑制を司っている重要な機能であるが、互いに補填するものではなく一方が、機能を発揮している場合、他方がその機能を失い、局在を移動していく可能性が考えられる。本研究ではそれらの推論をある程度あきらかできた。さらに発がん過程において、様々な遺伝子のメチル化の蓄積とインスレーター機能の消失ががん化に向けて関与しているものと考えられる。今後は、より定量性を示す解析として細胞内分画中のCTCFならびにDnmtの蛋白レベルの量的解析とCTCFの核内から細胞質への移動を動的に捉える研究を進めていく予定である。
今後は、より定量性を示す解析として細胞内分画中のCTCFならびにDnmtの蛋白レベルの量的解析を行い、より定量的に局在に差異があることを明らかにしていく。また、インスレーターとメチル化機構の関連性をより明らかにすることを目的に、脱メチル化状態ではCTCFはどの様な挙動を示すか検討を進めていきたい。それによって、両機構が相互に関連したものであり、独立した発現機序を持っているものではないことの証明にも繋がる。さらにCTCFの核内から細胞質への移動を動的に捉える研究を進めていくことで、これらの因子が核内と細胞質内を容易に移動して、その機能を発揮することの証明にもなるかと思われる。一方、脱メチル化による実験とは反対にsiRNAを用いたCTCFのノックダウン実験を行うことでメチル化状態が変貌するか検討を加える。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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